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10月11日 オーストラリアのゴールドコースト経由でメルボルンへ。今回はジェットスター航空で延べ12時間ほどの空の旅。毛布もビデオモニターも機内食まですべてオプション購入になっているので、個々の選択にゆだねられます。ただ、長距離便だとねぇ、退屈で、サービス過剰ぎみの (例えばコーヒーやワインのおかわりがOK) の他航空便がなんだか恨めしかったりします。

メルボルンは陽差しがすっかり春めいて、ノースリーブやTシャツ姿で街を闊歩している人々も見うけられる。さて、先月滞在した同じアパート部屋に戻ってきた。わたしが日本にいる間は、ダンサーのカップルたちに又貸ししていたらしいけど、見事なくらいピカピカに部屋を掃除してくれていた。なんて繊細で素晴らしい人たちなんだろう。

chunkymove2008.jpg着いてわずかの仮眠をとる間もなく、Chunky Moveスタジオへ向かうことに。プロジェクトマネージャーのリチャードとサウンドオペレーターのアリは、急遽マルチスピーカーを持ち込んで、システムの先行チェックをしていたのでした。こちらは日本から手直しした4GBものサウンドファイルをすでにインターネット経由でアリに送っていたので、彼はプログラミングをやり直す作業をし、ルーシーも一緒に試聴することになっている。アリはだいぶんマルチシステムのためのアプリケーションにも手慣れてきたようで、プレビューまでにはなんとか漕ぎつけそうです。ほっと一息。

10月12日 コンテンポラリー・ダンスカンパニーChunky Moveの公演「Two Faced Bastard」を昼すぎに見に行く。この作品は、主宰振付家のギディオン・オバーザネクと公私を共にするルーシ・ギャレンのコラボレーション製作。メルボルン・インターナショナル・アーツ・フェスティバルでは、地元ダンス界の先端を走る二人の協力なパートナーシップも注目の的。それにしても、「Corridor」という大規模な作品を製作しながら、他のプロジェクトも同時進行させてしまう振付家ルーシーのエネルギーと才能には驚くばかり。そして、アントニー、バイロン、リーという3人のダンサーも両作品に出演しているのだ。これは絶対に見逃すわけにはいかない。「Two Faced Bastard」では、一つのステージをはさんで両サイド向き合わせで客席が設けられていた。スリットになったカーテンでステージは分断され、AサイドとBサイドで異なったダンサーたちが異なった展開をしていくのです。どちらの客席側に座るかで印象が違ってくるし、カーテン越しに笑いやざわめきが起こったりすると、「あちらでいったい何が起こっているのか?」、ただただ覗きたくなってきてしまう。舞台半ばで、「ストップ!」と役者が叫ぶ。「どう、向こう側が見たいと思わない?ならば、座席を移ってはいかがかな?」というセリフ。で、多くのオーディエンス (わたしも含め) がステージを跨いでA側とB側に大移動。舞台は振り出しに戻り、ああ、そういうことだったか、と妙に納得。Chunky Moveのショーは奇抜なアイディアとユーモアのセンス、ダイナミックなムーブメントで、次は何をやらかしてくれるのだろうか?という期待をもたらしてくれる。がっちり地元人気をつかみつつ、世界に飛翔しているカンパニーなのです。

10月14日-15日 ヴィクトリア調の建物ミートマーケットのArtsHouseで、最終仕上げのセット・リハーサルが再開される。ダンサーたちは動きの復習、サウンドデザインの方は細かい詰めに差しかかっている。座席下の12個の小スピーカーで音をどう動かすか、最後まで調整に余念がありません。
meatmarket2.jpglucy.mirror.jpg


10月16日 いよいよプレヴューの夜。ルーシーもダンサーたちも気をひきしめているようす。
廊下状のステージに沿った100席はすぐに埋まっていく。始まりのない、あいまいさで、ダンサーたちは携帯電話でしゃべりながら歩き出す。街中で録音した声々が座席下スピーカーからまばらに鳴り始める。「Corridor」では観客さえも作品の一部となるのです。
ダンサーたちは日常的な振る舞いをしたかと思えば、互いに即興で振付し合ったり、外世界と内世界への通路を気まぐれなほどに往来する。
次の場面では、電磁波のクリック音で、いっせいに踊り出したり。
リーのソロでは崩れたヘナチョコ・ダンスが披露され、チープな質感のリズムが後押しする。
「Shower Alone」の歌が始まると、鏡面パネルに文字を書きながらゆるりと移動、そしてシャワールームのごとく四面パネルに囲われたダンサーたちは身体をくねらせ陶酔的な瞬間。
ハーレットとカースティのデュエットでは生々しい肉声のハーモニー。
リーディングをしながら、またiPodを聞きながら全員がシンクロしたり、と絶えず拡張されていく身体感覚と時間感覚。
長いステージを交差しながら走り抜けていくシーンでは、足音もびゅんびゅんスピーカーの間を走り抜けていくシアター的音響。
鏡の内でオブジェ・ランプが灯ると共に微細な高周波が漂う最終セクション。ダンサーたちは白い紙の装束を身にまとい、絡み合いながら自ら紙の音を立てる。スピーカーからも紙や鉛筆といった現実音が加工されて蠢く。
空気のような低音が徐々に上昇音に移り変わり、他者と携帯電話で話しているアントニーがオブジェ・ランプを押しながら、客席背後をゆっくりと一巡する。
おもむろに彼が灯りを消す。

1shower.panel.jpg2sara_kirstie.jpg

3lamp_costme.jpg4sara.costume.jpg


ー しばしの暗闇と沈黙 ー

客電が点いた瞬間、わっと拍手がわき起こりました。
初演成功です、やれやれ。

10月17日 それでも腑に落ちない点があった。今晩のショーの前に、いまいちど2ペアのラウドスピーカーと各サブスピーカーの再調整を試みることにしました。それで発覚したのは、アリが勝手に良かれと思い、スピーカーのイコライジングを前後で違う設定にしていたのだ。やれやれ、いらんことしてくれたものです。4つのスピーカーとサブを完全対象な設定に戻すと、狙っていた3Dっぽいサラウンド効果があらわれた。空気のような低音は濃霧のごとく、シャワー音は全客席に降り注ぐサウンドのカーテンとなり、ラストのフランジング音は会場を取り巻き渦のように動いているかんじです。
今夜のショーは何かが変わった。
「やったー」という達成感を、ついにわたしは味わうことができました。
6人のダンサーも緊張がほぐれたせいか、「うん、キマッタ」という感触。
聴衆はあたかも「Corridor」という共同通路を抜けて、別の時限にワープさせられたかのようでした。

10月18日 gertrude.jpg昼間にシドニー在住のサウンドアーティスト、ゲイル・プリーストさんからインタビューを受ける。彼女はミケーラの友人でフェスティバルの取材のためにメルボルンを訪れていたのです。その後、一緒にGertrudeコンテンポラリー・アートスペースへ行くことにしました。「21:100:100」は、21世紀に制作された100人のサウンドアーティストによる100作品、という触れ込みの展覧会。ギャラリー展示は各作家紹介のパネルとヘッドフォンという形態で、人々は熱心に音源に聞き入っていました。角田俊也さんや、Improvised Music from Japanサイト関連の音楽家など、日本人アーティストが数多くセレクトされているのも一つの傾向。
今回の滞在中に、RMITギャラリーの「HEAT」展を、ACMI (Australian Centre for the Moving Image) にはアッバス・キアロスタミとヴィクトル・エリセのコラボレーション「Correspondences」を観に行きました。イランとスペインという別の場所に生まれ活動しながら、スピリチュアルな面でつながりのある二人の映画監督の映像共同作品、インスタレーションには、グッとくるものがあり、長い時間をかけてACMIで作品に見入っていました。

10月19日 メルボルン滞在の最終日。

「Corridor」は昼夜の部を合わせて全13公演ありますが、連日ソールドアウト。驚きです。発せられる言葉の多さ、つかみどころの無さ、それほど分かりやすい作品ではないからです。いえ、むしろ実験的なこだわりを貫いた作品といえるでしょう。それにしても、廊下状のステージが最大限に生かされたダンサーの配置や動き、照明やセットも緻密ながら刺激に満ちている。何よりもそこに席を取って体験することに、格別な意味があるように思われます。マルチサウンドも客席のどこに座るかで、聞こえてくるものの印象が違ってきますし、実際に座席下スピーカーは、オーディエンスの尻や鞄で吸音されるので、毎回状態が変化する、というのもこの作品の特徴。こういうアイディアはハイファイな精細さを求めるサウンドアートとはぜんぜん違う発想から生まれているので、ちょっとしたショックを受けました。ルーシーとのコラボレーションを巡ってじつに貴重な経験をさせてもらい、また一つ階段をのぼれたような気がします。
ルーシー・ギャレンIncの「Corridor」は来年アメリカで巡回されますが、今後ヨーロッパや日本でも公演されることを祈りたいです。
corridor.fullseats.jpg



(※注:掲載した写真はすべて、リハーサルの合間に個人的に撮った記録です。)

(ちなみに、プロ写真家によるショーの公式写真はこちらのサイトにアップされています↓)
Photography by Belinda http://www.dancephotography.net.au/lucy_guerin.htm
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HACO
歌手作曲家、プロデューサー、サウンドアーティストとして精力的に活動中。
元アフターディナー、ホアヒオ、ヴューマスターズ(現音採集観察学会)を主宰。
隔月刊ニュースレター配信中。

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