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10月21日の昼、ブリスベンから飛んでシドニー空港に上陸。荷物をピックアップしていたら「Hi、ハコ」と呼べれて振り返ると、金髪で眼鏡をかけた若者が立っていた。「アー、ユー、カレブ?」。「Yes」。お互いにこやかに微笑みぎゅっと握手。このわたしをオーストラリアに初めて呼んでくれ、東海岸ツアーを組んだプロモーターはこのカレブ K.なのです。彼はキュレーターとして、シドニーの現代美術ギャラリーArtspaceで開催されるTyphoon: performing soundというシリーズ・イベントを企画しています。

Artspaceは先鋭的なアートプログラムや文化コミュニティーで知られ、近年注目を浴びているアートセンターです。話題になった重要な展覧会も多く開かれているとのこと。天井が高くて広々とした白いギャラリースペースがイベントの会場です。Typhoonで2日間すべてのパフォーマンスがここで実施されます。しかし、コンサートホールのようにPAの設備が万全といわけではなく、音も無いのにスピーカーからバズがでていたり、サウンドチェックはすんなりというわけにはいきません。そうこうしているうちに、今夜の出演者でもあるジョイス・ヒンターディングが会場入り。神戸のジーベックで会って以来12年ぶりの再会です。「ハコ!」。感慨ひとしお。彼女はわたしのことをよく覚えていてくれたみたいです。いただいたシーシェル・ヘッドフォンを大切に使っていること、以降の作品についても興味があることをすぐさま伝えました。

7時すぎて開場が始まると、詰め寄せた人々のおしゃべりがこだまする。会場の広さや残響もあるし、ノイズ、ロック、インプロ、デジタルミュージックを含んだこのイベントでは、いくぶん大きめの音量に設定されていた。一番手はジョイスのパフォーマンス。ちょうどフラフープくらいの大きさの黒いアンテナを両手で握って、周辺の電磁波をキャッチしながらの演奏。微妙にうなりが変化していく持続音を聴く作品で、じつにかっこいい。次に、地元ファースト・マウンテン・ダイのフィードバックを使ったバンド・ノイズのインプロ。その後、ロビン・フォックスのサウンドと映像のパフォーマンス。単純な電子音やノッチノイズとその変調に同期したオシロスコープの緑線が白壁に映しだされている。オーディエンスが盛り上がってきました。わたしは、ヴィデオ・カメラの映像を確認し、ステレオ・バグスコープをスタート。ゆっくりとピックアップを両手でつかみ動かす。いつもよりPAの音量が高いので、かなりのハッシュノイズが飛びだす。オペレーターはサウンドチェックの時よりさらにボリュームを上げたようで、今夜のバグスコープは時々エクストリームで爆音が鳴るけど、このままいくしかない。CDRドライブの駆動音を二つのピックアップが大増幅。ピーン。ディスクが焼けて"取り出し"、CDがドライブから飛びだした瞬間、場内から「うお〜!」という歓声が上がる。わたしの口元はわずかにゆるむ。ラップトップを"シャットダウン"して音が終わる。割れるような拍手で「ブラボー!」、カレブは大喜び。「いや、今日のはうるさかったんです」って愚痴ると、「え〜、みんな口々に素晴らしかったって言ってるよ」と彼は小首をかしげながら上機嫌です。きっと場所とシチュエーションなのだ。ここの人々は、わたしがバグスコープで表現したいことの核心を、感覚で見抜いているのではないかと、そんな気がしてきました。
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10月22日、Artspace近くのホテルを朝10時にチェックアウトしてフロントに荷物を預け、せっかくのオーストラリア最終日なのだし周りをすこし観光することにしました。陸橋をとぼとぼと歩いていたら、目の前に見覚えのある赤いトレーナーの後ろ姿が。「JOJOさ〜ん!」と駆け寄った。「あっ、これから美術館に行こうかなと思って、そっちに行きます?」と彼はやさしく言った。JOJO広重さんはTyphoonイベントの2日目の今晩最後に出演します。シドニーにはすでに数日滞在中。そういうわけで、公園の敷地内にあるNSW州立美術館へ彼に案内してもらい、一緒にカフェで世間話をしてくつろぎました。不思議なことです、シドニーで初めてこうしてゆっくりとお話しできるなんて。JOJOさんはとても穏やかに小さな声でしゃべる人。
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午後2時からは、Artspaceでカレブ K.をはじめとする四人のパネラーによるフォーラムが開催されました。メルボルンでお世話になったフィリップ・サマーティスも講師の一人。私の英語力ではすべてを把握するのは不可能ですが、フォーラムの大半はノイズをキーワードにした次世代の芸術についてそれぞれの視点で分析し展望する、という傾向にあったようです。サマーティス教授は「バグスコープのパフォーマンスは、とてもシンプルなことをしているのに、強烈なアプローチを感じる。出てくる音は非常に美しいのだが、ヴィデオ映像との組み合わせでなぜか私は奇妙な気持ちにさせられた。ある種のドキュメンタリーでも観ているように」と語っていました。夕方、近くのカフェでワインを飲みながら皆と雑談。ジョイスは「あなたのパフォーマンスでヴィデオに映った指の動きを見ていると、なぜだか奇妙な生き物のように感じたわ」と言った。「Yes, I know this」とわたしは答えた。残りわずかな時間を仲良くなった人々と過ごせてよかったです。わたしのオーストラリア・ツアーはこうして疾風のよう..。いよいよ夜7時に。タクシーでシドニー空港へと向かう時間がやってきました。すごく濃厚な5日間。各地での理解ある歓迎ぶり、温かなおもてなしが、心にぎゅっとつまっています。
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HACO
歌手作曲家、プロデューサー、サウンドアーティストとして精力的に活動中。
元アフターディナー、ホアヒオ、ヴューマスターズ(現音採集観察学会)を主宰。
隔月刊ニュースレター配信中。

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