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ヴューマスターズ 大阪-メルボルン リミックス
●「View Masters トラム・コンサート」のレポートです
日時:2007年2月4日(日)
移動する会場:阪堺電車内(恵美須町 - 浜寺駅前)
15:00〜17:30


kashikiri.jpg
晴れわたった空。大阪名物、通天閣の近くにある阪堺電鉄の恵美須町駅が集合場所です。午後3時前、駅の構内ではアーティストの宮本さん自らがスタッフとして、当日のVMトラム乗車切符を販売していました。プラットフォームで待っているお客さんはまるで遠足気分なのか、皆にこにこ顔です。路面電車のコンサートは人気を博し、予約者とスタッフを含め60人に達したので、座席を確保するため急遽2台の電車を貸切ることになりました。それぞれPAを設置した2車は前後に離れず運行され、オーディエンスは2つの車両に分かれて乗車するのですが、車庫のある中間点で乗り換えることにより、いわば2つの会場を行き来きすることによって、4つのコンサートをひと通り鑑賞することができるのです。

「それでは発車いたします!」


・Snawklor(Nathan Gray、Dylan Martorell)

メルボルンからのアーティスト、ネイサン・グレーとディラン・マートレイルのユニット。この2人は共作を続けてもう10年以上にもなるとうことで、さすがに演奏の方も阿吽の呼吸です。メルボルンで録音してきた環境空間の音と大阪滞在中に採集した音を混ぜ合わせて鳴らしているようでした。それに、だんだんと深いディレイがかけられます。マイクロフォンでトランペットや玩具の音を重ねてループになり、変調されてふわふわしたサイケデリックな要素をかんじさせサウンドになっていきます。走る電車の窓から見える風景が、まるで絵巻のようにずっと流れていくようすを目で追いかけると文字どおり"トリップ"という言葉が似合います。ジェフやこの演奏者2人も滞在リサーチ中に大いに霊感を与えられたという住吉大社の前を電車が通った時には、不思議な高揚感すらかんじられました。

「我孫子道」で下車、20分間セッティング換えのため休憩。絶好の記念撮影スポットです。その間、収納場所に置かれている車両やその歴史を雄弁に解説する鉄道マニアの人なんかもいました。会場の準備が整い、もう一つの車両に乗り換えます。これから大阪市と堺市の境界、大和川を渡ります。


・中垣みゆき&実樹ちとせ

OTTOというユニットで活動するデュオ。両者とも毎年ヴューマスターズの音観察レポートを提出しているVMワークショップの優等生です。枯葉を足で踏むパリパリという音、雨水の変調された音やなんかが、サンプラーから鳴っています。彼女たちはこれまで音採集観察してきたネタをもとに構成を組み立てていることは明らかです。PAのスピーカーは車両の前と後ろに置かれており、1人ずつの音が1個ずつのスピーカーに完全に振られているように聞こえました。いわば2個のスピーカーで車両分の距離をもったPA音場ができあがっているわけで、これもユニークな点です。電車の中ではすでにピーという持続音やもちろんガタンゴトンという揺れる音、さまざまな音が聞こえています。それらのいわば騒音も自分の耳でミックスさせながら、刻一刻と変わっていく音楽となっていく。そういうことをあらためて意識させられました。
路面電車は仁徳天皇陵の近くを越え、路線の末端へと向かっています。

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・拡大鏡-Magnifying Glass(Lozi、小島剛)

さて「浜寺駅前」から折り返し、復路となります。映像と音のプログラミングを制御する拡大鏡パフォーマンスの始まり。シグナル・トーンが電車保有のノイズにアクセント与えて、スクリーンにはヨーロッパの電車の映像などがレイアウトされました。映像上のカーソルが範囲を指示するとズームされ、サウンドもそれに伴い変化するシステム。2台のラップトップで音と映像を操ります。すでに窓の外のホンモノの風景が動いているので、スクリーン上に映しだされた風景はまるで箱庭のレプリカのような印象も受け、ワープしたかんじです。電子音もこの路面電車のシチュエーションですと、通常とは違った印象を受けます。後半はビデオ・カメラを乗客に向けて、リアルタイムの映像処理をするというのもゲームのような楽しさに溢れていました。まさに走っている物体で展開された、スピード感のある拡大鏡パフォーマンスでした、

復路でも車庫のある駅でいったん休憩、乗り換えて、最後のセットに臨みます。


・中尾勘二&江崎将史

トロンボーンの中尾さん、トランペットの江崎さんによる完全アコースティックな演奏。最初からぴしっと張りつめた空気が路面電車中に漂い、楽器や所作から発せられた音ひとつひとつのディティールに観客の耳も目もくぎずけになりました。楽器に吹き入れるシューシューという息の音、カシャカシャという金具の音、もう電車に同化しちゃってます。とくに中尾さんは鉄道愛好家で、この路面電車とのコラボは「サイコーの気分」だったそうです。半空きの窓からトロンボーンの朝顔を出し、外に向けてプーと警笛のように鳴らしたのは、極めつけというべきか。一方、江崎さんはミュートしたトランペットでクールないつもの演奏状態。床にトランペットを擦りつけてキーと鳴らしながら前方に移動。しばらく立ちつくして無音。そしてまた座席に戻ってくる。にわかにトローンボーンとトランペットの輪唱のようなデュエットが始まりました。列車は終点「恵美須町」に到着したようですが。それでも2人は演奏を止めるようすはありません。観客はみじろごもせずそれを見守っていました。わたしはジングルのファンファーレのつもりで演奏してるのかなぁ?と勘ぐっていました。しかし、ようやく電車が止まっていることに気づいた素振りで、2人は長いエンディングにプリオドを打ちました。

magglass.jpgtram.shako.jpgnakao.ezaki.jpg


いや〜、やっぱり乗りもの「トラム」のコンサートは愉しいです。沿線の街風景が動く、自分たちが運ばれている状態、演奏者も観客も時間移動を共有する喜びみたいなもの。そのなかで周囲の環境音に耳が研ぎ澄まされていく過程のようなものを、乗客=観客がみずから積極的に享受していたように感じました。


★追記

・このトラム・コンサートについては、小暮宣雄氏のブログにも詳しい感想が記載されているのを拝見しました(写真も満載です)、リンクにてご紹介させていただきます。
「こぐれ日乗 鑑賞探偵・文化政策 アーツマネージャーさんいらっしゃい 」

・また、ラジオ大阪「ピピッとおおさか大発見!!」という番組で、このトラム・コンサートとヴューマスターズ・リミックス展覧会のようすが30分構成で紹介されました。webページで番組内容の閲覧、放送(ほとんど談話から構成されていますが)を聴くことができます。
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HACO
歌手作曲家、プロデューサー、サウンドアーティストとして精力的に活動中。
元アフターディナー、ホアヒオ、ヴューマスターズ(現音採集観察学会)を主宰。
隔月刊ニュースレター配信中。

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