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ヴューマスターズ(現音採集観察会)2005のコンサート&パフォーマンスが、11月20日に大阪築港赤レンガ倉庫で開催されました。『音から透かしみる未来』 として、音の観察や抽出をキーワードにし、次代をになう若手アーティストたちの視点を特集しました。それぞれアプローチの異なる四つのパフォーマンスをレポートします。


・ 山本雅史 『Here, There and Everywhere』-自分自身の記憶と赤レンガ倉庫自身の記憶を重ねる-

yamamoto.jpg自称働く表現家。某倉庫会社で中間管理職として激務をこなす山本さんは、View Mastersのワークショップに三年連続で参加してきました。彼は演奏の場所として、カフェの空間を選び、「自身の会社生活/家族生活での記憶と赤レンガ倉庫の記憶を音で表現/再現する」という。サンプラーやエフェクター、ギターや民族楽器がきちんと並べられた小ステージ。実は、山本さんはこの会場がかつて倉庫として使われていた時代に会社員として勤務していたことがあり、たしかな音の"記憶"があります。冒頭では、荷車の稼働音や機械のビープ音、周辺の騒音でできた重厚なドローンにギターで持続音を合わせます。場面はころっと一転し、庭先ではしゃぐ子どもの可愛らしい声が繰りかえされる。途中に携帯電話で何やらキュー出し。すると、カフェの天井二階からドッタドッタ、まぎれもない人間の足音が! (あとでご家族の三人が協力と判明)。タイ旅行中にフィールドレコーディングされた街の雑踏の音に、現地で買った民族楽器のケーンでクラクションのような和音を乗せるエンディング。自己の"記憶"の中にある場景と音の"翻訳"が、とても愉しく表現されていました。


・ OTTO (中垣みゆき & 実樹ちとせ) 『おとあそぶ』 -かくれんぼする音この指とまれ-

otto.jpgView Mastersのイベント参加をきっかけに、2003年に活動開始したデュオ。「周りで聞こえる身近な日常の音を採集。それらをコラージュして音を創るサンプラーユニット」。繁華街のにぎわい、キャリングケースのガタガタ、Eメール・チャック時の信号音、足音、水の流れる音、歯磨きの音..。それらがデフォルメされ、時に元音の輪郭さえわからなくなったループになったり、多層になったりして構成される二人の演奏。中垣さんはずっとカセットレコーダーで音採集してきたローテク派。一方、実樹さんはデジタルに強い先どり派。両者が合わさったみずみずしい感性は、やわらかで繊細なサウンドへと結びつく。どこかほのぼのとして、また心地良い勘所もおさえた『おとあそぶ』でした。




・ 川口貴大 『2本のマイクロフォンから抽出される6本の瓶と空間の音色、その操作』

kawaguchi.jpg「厳密には当日は瓶は5本使用しました。マイクロフォンは2本(1本は1本の瓶へ、もう1本はLとRを分けて2本の瓶へ入れていました)」。瓶の中のマイクがキャプチャーした信号がミックスされスピーカーから放たれ、またマイクで拾われる。音同士の"干渉"や"うなり"によって波打つフィードバック空間。川口さんは、赤レンガ倉庫の深い残響がもたらす変調や人の動きにも反応しながら、マイクからの入力をミキサーで微調整したという。「ガラス瓶演奏では、空間や空間にある物理的状況により自立的に音が変化し続けるポイントがある。私はガラス瓶たちの自立的な演奏を、自分の行っているフィールドレコーディング的視点で鑑賞したいのであるから、ライブパフォーマンスの場において私の行うことはそのポイントを探し、ガラス瓶の自立的変化を促す作業にある」という静的なインスタレーションを思わせる作品でした。


・ 梅田哲也 『アンテナみみ』 -ひとつの環境で変化する聞こえ方、消滅するおと-

umeda.jpg梅田さんの説明文から抜粋します。「赤レンガ倉庫(今回使用した314、315棟)は鉄筋の石造りで天井が高くて広い。さらに建設されたのは大正時代と古く、(略)、音場のキャラクターは相当に強烈だ」。「ラジオの音は、5m離れただけで言葉を解析できなくなり、コーナーに至るとテクスチャそのものが変化してしまう」。「限られた空間において反射を繰り返した音の波は、ある周波数の音を聞こえにくくし、そうでない音を生かすという特殊な効果を耳にもたらした」。"空間に消費される音"をテーマにしたパフォーマンスを、限られた時間内でデモンストレーション的にやれないだろうか、というのが『アンテナみみ』の出発点だという。彼は、二つの異なった空間の中央に同機種のオープンリール・テープレコーダーを設置し、一方を録音機、もう一方を再生機にして30メートル近い長さのテープ・ループを創りました。残響の深い315棟の中央、対角の天井付近、床下にそれぞれマイクを設置して、314棟のミキサーに送る。パフォーマーはテレコの録音ヘッドと手元ミキサー、話すためのマイクを操作するけれど、暗転にしてあるので客席から姿は見えない。また秒針を刻むベルが10個、二棟の間に時間差でタイマー設定されている。録音と再生の時間差は約2分半もあり、「繰り返した音声は重複し加算されながら、かつ時間の経過とともに様々な時間の断片がバラバラにつなぎ合わされた状態になり、反響や残響のみが検出されていく」。わたしの印象では、二つの空間をつなぐ『アンテナみみ』というタイムマシーンができたようなかんじでした。真っ暗な客席から覗き聴かれる別棟の反響は、まるで幾重にも塗り込んだフレスコ画のような音響的フレームを露わにしていました。


プログラムの合間にオプションとして、10分間ほど、観客を含めた場内全員で遊んでもらいました。

・Haco 『ソーラー・モスキート・オシレーターズ』 (Solar Mosquito Oscillators) 

5000〜9000ヘルツの周波数で鳴る太陽電池式の小さな発振器を多数使うことによって、干渉や変調による音の"うなり"や"もわれ"を空間に作りだす参加型ライヴ・インスタレーションです。鑑賞する人の動きや聴き方(意識)によって音の"ゆれ"などの変化があらわれます。壁の反射音や周囲の雑音とも混ざりあった全てが一つの作品となります。日用品のソーラー充電式蚊よけ器を応用していることからこの名称がついています。同じ鳴っている20個の発振器を人々に手渡し、首を振ったり、歩きまわったり、自由に動いてもらいます。微細な音の変化を体験するのでおしゃべりは禁物です。10分間は意外と長く退屈に思えたかもしれません(会場の外に出て散歩してもらっても良かったのにな、とすこし説明不足だったのを反省)。10分が経過し、皆がそれぞれの発振器を返してくれる時に、なぜか白い台にきれいに並べるように置いていったのです。ぜんぶ集まると台上は、高周波でできた"もわれ"の祭壇みたいになりました。鳴ったままの発振音のスイッチをひとつひとつ消していきます。最後の一つをプチッと切る。(静寂)。ふっ、と息つく瞬間。
solarmosquito2.jpgmosquito.yuko.jpg


ご協力いただいたお客さん、すばらしいパフォーマンスを展開してくださったアーティストたち、会場のスタッフの皆様、どうもありがとうございました!

(写真:by Haco、最下右側のみby Yuko Nexus6)
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HACO
歌手作曲家、プロデューサー、サウンドアーティストとして精力的に活動中。
元アフターディナー、ホアヒオ、ヴューマスターズ(現音採集観察学会)を主宰。
隔月刊ニュースレター配信中。

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