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Riska-feedback 03
「音楽と美術」 by inikun9
After Dinnerの1st EPのリリースは1982年のことだから、かれこれ20数年、僕はこの人の歌を聴いて来たことになる。
「RISKA」は、Disk Unionの中のArcangeloというレーベルからのリリースで、録音・ミックス・マスタリングの一連の作業はHacoのハウス・スタジオにてミュージシャン本人の手によって行われている。
所謂、宅録なのであるが、これが俄に宅録とは信じられないほど音が良い。
最初、僕はこのアルバムを自宅の小型スピーカーとデジタルアンプとPCをベースにした送り出し機器で組み上げたサブシステムで再生したのだが、一聴、音の良さに驚いてしまった。
その後に大型スピーカーを使ったメインシステムでの再生、更にはコンデンザー・ヘッドフォンを使っての検聴モードでの確認もしてみたのだが、やはり素晴らしい音質。
このアルバムでHacoのヴォーカルと彼女が操る各種のエレクトロニクスをサポートするのは、ベースやドラムやギターというロックのフォーマットではなく、マリンバやヴィブラフォンなどの打楽器やトランペットにチェロといったアコースティックな楽器達だ。
音響派に限らず、色んなジャンルの音楽において「エレクトロニクスとアコースティックな響きの調和」という言葉をよく耳にする訳だが、実際にこれが上手く行っている作品は果たしてどれほど有るのだろうか。
僕は寡聞にして、ここ20年くらいの録音物の中にそれに該当する作品を知らない。
アコースティック楽器に積極的にエフェクトを掛けて変調させて、エレクトロニクスと組み合わせるというTsuki No Waみたいな音楽は全然okなのだけど、互いの響きをそのままパッケージするかの様な割と素朴(?)な方法論で作られる音楽に対しては、その結果に対してテクスチュアの肌理の粗さというか、Harshな手触り・音触りを感じてしまうことが多くて、あまり好きになれない。
何故なのだろう?
アコースティック楽器をそのままで聴いて心地良いと感じる微妙なポイントがエレクトロニクスと混ざることによって幾分損なわれてしまう、という事でもあるのだろうか。
この辺りのことは実のところよく分からない。
もしかすると、エレクトロニクスと混じることでアコースティック楽器の美味しい倍音成分等の何らかの情報がモジられるのだろうか?
何れにせよ、こんなことは極私的なことなんで一人で悩んでいれば良いのだが...。
さて、「RISKA」に話を戻すと、このアルバムでのアコースティック楽器は発音時の立ち上がりから、倍音が減衰して消え行くまでの一連の様子が、音場も含めて十全に収められているという様な、超Hi-FIとは少しばかり違うスタイルの録音となっている。
極度のエフェクトこそ掛かっていないが、アコースティック楽器はどれも角がとれていて、丸い感じの音に仕上がっているので何らかの整音作業が施されているのではないかと思う。
このエッジを際立たせないアコースティックな音の仕上げが、Hacoの歌声やエレクトロニクスと実によく合っていて、これはもう極上のブレンド感だ。
しかし、一体どうやって作ったのだろうか、この音。
それと音場のデザインにも細心の配慮がなされていて、“シャワー・アロン”という曲はバイノーラルで録音されていて、これはシャワールームの水音などの現実音と楽曲の組み合わせが楽しい。
そーいえば、After Dinnerの1st LPにもバイノーラル録音の曲が有ったな。
この“シャワー・アロン”という曲の音場も確かに面白かったが、僕はタイトル曲での三次元的な音場の構築の仕方にとても感心した。
このアルバムの音質の良さというものは、高いSN比とか、ミクロ的な解像度とか、自然な音場とか、圧倒的な音圧とかいう類のポイントにはなくて、「エレクトロニクスとアコースティック」、「ヴォーカルとバック・トラック」それぞれの関係において、双方の音色やスピード感や空間の溶け合わせ方が抜群に優れているという点にあるのだと思う。
Hacoという人はミュージシャン(ギターも弾くのね、知らなかった)としては言わずもがなだが、エンジニアとしても天才的なタレントを持っているのだな。
再度言うが、一体どうやって作ったのだろうか、この音。
それと、このアルバムのもうひとつの魅力はその優れたジャケット・デザインにある。
松井智恵という美術作家の手によるジャケットは見開きになっていて、そこにはペンと水彩で描かれた絵があしらわれている。
独特な質感を持つ材質(触ると気持ちが良い)の紙の上に描かれたその絵は、見開きの外と内が繋がっていて双方で一幅の絵となっている。
人(その様に見える)そのもの(即ち、自分)と、人ではない(その様に見える)もの(即ち、他者)とが交錯する場に、あたかもエーテルの様に広がる“黄色の何か”…。
「Riskaは架空の人物についての物語 - それは声であり、繊細でしなやかな手、音そのものへの回帰、空気のふるえ」
これは、Haco自身が自らのhpに書いたこのアルバムに関するテキストだが、この言葉を手掛りにしてジャケットに描かれた“黄色の何か”に想いを巡らせながら、このアルバムを聴くことはとても楽しい体験だ。
尚、ジャケットに留まらず、ブックレットやCDのレーベルも十分に意匠が尽くされたものになっている。
音楽の内容を絵解きする様な説明的で従属的なものではなく、かと言って美術が独り歩きする様なエゴイスティックな主張の微塵も無く、音楽と完全に同調していながらも、良い意味で拮抗している音楽と美術の関係。
しみじみ、良いジャケットだと思う。
(2007-04-30記)
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Riska-feedback 03
「音楽と美術」 by inikun9
After Dinnerの1st EPのリリースは1982年のことだから、かれこれ20数年、僕はこの人の歌を聴いて来たことになる。
「RISKA」は、Disk Unionの中のArcangeloというレーベルからのリリースで、録音・ミックス・マスタリングの一連の作業はHacoのハウス・スタジオにてミュージシャン本人の手によって行われている。
所謂、宅録なのであるが、これが俄に宅録とは信じられないほど音が良い。
最初、僕はこのアルバムを自宅の小型スピーカーとデジタルアンプとPCをベースにした送り出し機器で組み上げたサブシステムで再生したのだが、一聴、音の良さに驚いてしまった。
その後に大型スピーカーを使ったメインシステムでの再生、更にはコンデンザー・ヘッドフォンを使っての検聴モードでの確認もしてみたのだが、やはり素晴らしい音質。
このアルバムでHacoのヴォーカルと彼女が操る各種のエレクトロニクスをサポートするのは、ベースやドラムやギターというロックのフォーマットではなく、マリンバやヴィブラフォンなどの打楽器やトランペットにチェロといったアコースティックな楽器達だ。
音響派に限らず、色んなジャンルの音楽において「エレクトロニクスとアコースティックな響きの調和」という言葉をよく耳にする訳だが、実際にこれが上手く行っている作品は果たしてどれほど有るのだろうか。
僕は寡聞にして、ここ20年くらいの録音物の中にそれに該当する作品を知らない。
アコースティック楽器に積極的にエフェクトを掛けて変調させて、エレクトロニクスと組み合わせるというTsuki No Waみたいな音楽は全然okなのだけど、互いの響きをそのままパッケージするかの様な割と素朴(?)な方法論で作られる音楽に対しては、その結果に対してテクスチュアの肌理の粗さというか、Harshな手触り・音触りを感じてしまうことが多くて、あまり好きになれない。
何故なのだろう?
アコースティック楽器をそのままで聴いて心地良いと感じる微妙なポイントがエレクトロニクスと混ざることによって幾分損なわれてしまう、という事でもあるのだろうか。
この辺りのことは実のところよく分からない。
もしかすると、エレクトロニクスと混じることでアコースティック楽器の美味しい倍音成分等の何らかの情報がモジられるのだろうか?
何れにせよ、こんなことは極私的なことなんで一人で悩んでいれば良いのだが...。
さて、「RISKA」に話を戻すと、このアルバムでのアコースティック楽器は発音時の立ち上がりから、倍音が減衰して消え行くまでの一連の様子が、音場も含めて十全に収められているという様な、超Hi-FIとは少しばかり違うスタイルの録音となっている。
極度のエフェクトこそ掛かっていないが、アコースティック楽器はどれも角がとれていて、丸い感じの音に仕上がっているので何らかの整音作業が施されているのではないかと思う。
このエッジを際立たせないアコースティックな音の仕上げが、Hacoの歌声やエレクトロニクスと実によく合っていて、これはもう極上のブレンド感だ。
しかし、一体どうやって作ったのだろうか、この音。
それと音場のデザインにも細心の配慮がなされていて、“シャワー・アロン”という曲はバイノーラルで録音されていて、これはシャワールームの水音などの現実音と楽曲の組み合わせが楽しい。
そーいえば、After Dinnerの1st LPにもバイノーラル録音の曲が有ったな。
この“シャワー・アロン”という曲の音場も確かに面白かったが、僕はタイトル曲での三次元的な音場の構築の仕方にとても感心した。
このアルバムの音質の良さというものは、高いSN比とか、ミクロ的な解像度とか、自然な音場とか、圧倒的な音圧とかいう類のポイントにはなくて、「エレクトロニクスとアコースティック」、「ヴォーカルとバック・トラック」それぞれの関係において、双方の音色やスピード感や空間の溶け合わせ方が抜群に優れているという点にあるのだと思う。
Hacoという人はミュージシャン(ギターも弾くのね、知らなかった)としては言わずもがなだが、エンジニアとしても天才的なタレントを持っているのだな。
再度言うが、一体どうやって作ったのだろうか、この音。
それと、このアルバムのもうひとつの魅力はその優れたジャケット・デザインにある。
松井智恵という美術作家の手によるジャケットは見開きになっていて、そこにはペンと水彩で描かれた絵があしらわれている。
独特な質感を持つ材質(触ると気持ちが良い)の紙の上に描かれたその絵は、見開きの外と内が繋がっていて双方で一幅の絵となっている。
人(その様に見える)そのもの(即ち、自分)と、人ではない(その様に見える)もの(即ち、他者)とが交錯する場に、あたかもエーテルの様に広がる“黄色の何か”…。
「Riskaは架空の人物についての物語 - それは声であり、繊細でしなやかな手、音そのものへの回帰、空気のふるえ」
これは、Haco自身が自らのhpに書いたこのアルバムに関するテキストだが、この言葉を手掛りにしてジャケットに描かれた“黄色の何か”に想いを巡らせながら、このアルバムを聴くことはとても楽しい体験だ。
尚、ジャケットに留まらず、ブックレットやCDのレーベルも十分に意匠が尽くされたものになっている。
音楽の内容を絵解きする様な説明的で従属的なものではなく、かと言って美術が独り歩きする様なエゴイスティックな主張の微塵も無く、音楽と完全に同調していながらも、良い意味で拮抗している音楽と美術の関係。
しみじみ、良いジャケットだと思う。
(2007-04-30記)
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HACO
HP:HACOHACO.NET
歌手作曲家、プロデューサー、サウンドアーティストとして精力的に活動中。
元アフターディナー、ホアヒオ、ヴューマスターズ(現音採集観察学会)を主宰。
隔月刊ニュースレター配信中。
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