10月27日、会場への入り時間は午後4時だから、昼間はすこし観光。ホテルで朝食をすませ、わたしはそそくさとメトロに乗る。ポンピドー芸術文化センターで現在開催中の「DADA展」を観にいくのです。パリに来たら必ずといっていいほど、毎回この国立近代美術館を訪れます。1階のチケット売り場ではすでに長い列がうずを巻いていた。さすがに「DADA展」は人気が高いのです。待っているあいだにフロアを見渡す。ちょっと前までは体育館みたいで若干時代遅れの印象だったポンピドーですが、改めてこうして眺めると、天井からパネルなど容易に吊り下げられる構造で、常にリフレッシュ可能で機能的な設計になっているのだと再認識。20年後も30年後も見越して造られてれているのでしょう。入場券を買うだけで30分以上もかかった「DADA展」は、作家、系列、文脈で細かく仕分けされた48ものブースを巡る大規模なもの。フランシス・ピカビアの絵コラージュやマン・レイのレイヨグラフィーなどなど、まとめて見ることができ、来たかいがありました。同時期に同素材を使っていたり、回答的な作品もあったり、かなり互いに意識し合い、影響し合っていたことが分かります。そして、いつのまか一番奥の広い部屋に足をはこんでいた。ここでは展示の白壁が取り去られ、ガラス張りになった窓からエッフェル塔やサクレ・クール聖堂までパリの絶景が展望できました。展覧会の鍵になるマルセル・デュシャンの作品「大ガラス」を透かして、その向こうにはパリの美しい街並みが見えたのです。
さて、会場Les Laboratoiresでは、サウンドチェックを兼ねて部分的にリハ。昨夜の演奏中、わたしの音のモニターが聞き取りにくかったので、ヴォリュームを上げてもらう。音楽は各楽章に分かれて構造は決まっていますが、譜面に書かれてあるのではなく、声とエレクトロニクスの出方で毎回変わる即興の要素をもっています。新鮮な気持ちで望めるのでいい。クラウディアはまだ昼間のうちに、照明担当のオフェリアンとスクリーン・イメージについて手直しを続けている。「Opera's Shadow」は毎日更新されているのです。
10月28日、最終日。だんだんと余裕がでてきて、入り時間は午後5時です。よって、わたしは昼前から出歩くことにする。メトロに乗ってイエナ駅を下車。現代アート美術館パレ・ド・トーキョーへ向かう。Robert Malavalというアーティストの作品は今までぜんぜん知りませんでした。ラメでサイケでロックなフランス版ポップ・アートというかんじ。彫刻は乳白色の蝋燭をとかしたフリークな形態。これまであまり成功していなかったようで、作品をいま一度見直す風潮があり、初の回顧展となったそうです。他の展覧も興味深くざざっと見学。荒木経惟氏の日本人モデルを使ったライブ・脱・フォトセッションの記録ヴィデオも一角で展示されていた。館内にはHello Kittyグッズも売られているブティックやミュージアム・ショップ、カフェなど、いずれも今どき風。パレ・ド・トーキョーを出て建物の裏側に回ると、セーヌ川を隔てた木々の間から、エッフェル塔の先っぽが見えるではありませんか。わたしはそこへ向かって散歩することにした。曇った空から小雨がぽつぽつ降りだしました。でも平気。このところパリは妙に暖かいので。残り時間はそうありません。道路わきの枯葉つもる並木路を早足で歩み、イエナ橋を渡ってひたすらエッフェル塔に近づいていく。手には携帯をカメラモードにしてパチパチ。もう100%おのぼりさんです。たぶん10年くらい前にエッフェル塔を見物したことはあるけれど、それ以来のこと。いやがおうでも焦がれていく、それがパリという街の魔力かもしれません。
楽屋では、「今夜もまた大入りですって」とクラウディアが愛嬌たっぷりに微笑んだ。この分野においてパリでの彼女の人気ぶりを物語っています。幼少からダンスを始めたイタリア人の彼女は、振付家としてパリに移り住みもう20年、ここで創作活動を続けています。ダンス界の異端児、近年は身体表現より、ヴォイスやサウンドパフォーマンスにより挑戦するべき糧を見いだしているようです。舞台装置や全体のコンセプトに至るまで、斬新なひらめきを具現化してきました。「Opera's Shadow」のモンペリエ公演までは、照明プログラミングに関してまで手がまわらないという課題が残りました。あれから少しずつ、担当者と調整しながら磨きをかけてきたのです。わたしは思うに、スクリーンに光で描かれ移り変わる色彩は、なんとも儚い、まるでステンドグラスのような透明感がある。陰影でできた線は、微妙にぎざぎざがあったり、ずれていたり、いびつだたりして、そこが美しい。ヴィデオ画像やフィルムとはまったく違ったもの。音楽は、特に古典的だったり、ファニーだったり、騒音的だったりする。けっしてすべらかではなく、ざらざらを残したかんじをクラウディアは好みます。シリールが口にした言葉、「スピリチャル」な要素が、どこかこの作品の根底に流れているのかもしれません。
最終公演が終了。「おめでとう」。Les Laboratoiresのディレクター、イヴァンヌさんがシャンペンを開けて、たくさんの来客や友人たちと祝杯をあげました。
明日の朝、わたしはパリを発ち、家路へと向かいます。
さて、会場Les Laboratoiresでは、サウンドチェックを兼ねて部分的にリハ。昨夜の演奏中、わたしの音のモニターが聞き取りにくかったので、ヴォリュームを上げてもらう。音楽は各楽章に分かれて構造は決まっていますが、譜面に書かれてあるのではなく、声とエレクトロニクスの出方で毎回変わる即興の要素をもっています。新鮮な気持ちで望めるのでいい。クラウディアはまだ昼間のうちに、照明担当のオフェリアンとスクリーン・イメージについて手直しを続けている。「Opera's Shadow」は毎日更新されているのです。
10月28日、最終日。だんだんと余裕がでてきて、入り時間は午後5時です。よって、わたしは昼前から出歩くことにする。メトロに乗ってイエナ駅を下車。現代アート美術館パレ・ド・トーキョーへ向かう。Robert Malavalというアーティストの作品は今までぜんぜん知りませんでした。ラメでサイケでロックなフランス版ポップ・アートというかんじ。彫刻は乳白色の蝋燭をとかしたフリークな形態。これまであまり成功していなかったようで、作品をいま一度見直す風潮があり、初の回顧展となったそうです。他の展覧も興味深くざざっと見学。荒木経惟氏の日本人モデルを使ったライブ・脱・フォトセッションの記録ヴィデオも一角で展示されていた。館内にはHello Kittyグッズも売られているブティックやミュージアム・ショップ、カフェなど、いずれも今どき風。パレ・ド・トーキョーを出て建物の裏側に回ると、セーヌ川を隔てた木々の間から、エッフェル塔の先っぽが見えるではありませんか。わたしはそこへ向かって散歩することにした。曇った空から小雨がぽつぽつ降りだしました。でも平気。このところパリは妙に暖かいので。残り時間はそうありません。道路わきの枯葉つもる並木路を早足で歩み、イエナ橋を渡ってひたすらエッフェル塔に近づいていく。手には携帯をカメラモードにしてパチパチ。もう100%おのぼりさんです。たぶん10年くらい前にエッフェル塔を見物したことはあるけれど、それ以来のこと。いやがおうでも焦がれていく、それがパリという街の魔力かもしれません。
楽屋では、「今夜もまた大入りですって」とクラウディアが愛嬌たっぷりに微笑んだ。この分野においてパリでの彼女の人気ぶりを物語っています。幼少からダンスを始めたイタリア人の彼女は、振付家としてパリに移り住みもう20年、ここで創作活動を続けています。ダンス界の異端児、近年は身体表現より、ヴォイスやサウンドパフォーマンスにより挑戦するべき糧を見いだしているようです。舞台装置や全体のコンセプトに至るまで、斬新なひらめきを具現化してきました。「Opera's Shadow」のモンペリエ公演までは、照明プログラミングに関してまで手がまわらないという課題が残りました。あれから少しずつ、担当者と調整しながら磨きをかけてきたのです。わたしは思うに、スクリーンに光で描かれ移り変わる色彩は、なんとも儚い、まるでステンドグラスのような透明感がある。陰影でできた線は、微妙にぎざぎざがあったり、ずれていたり、いびつだたりして、そこが美しい。ヴィデオ画像やフィルムとはまったく違ったもの。音楽は、特に古典的だったり、ファニーだったり、騒音的だったりする。けっしてすべらかではなく、ざらざらを残したかんじをクラウディアは好みます。シリールが口にした言葉、「スピリチャル」な要素が、どこかこの作品の根底に流れているのかもしれません。
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歌手作曲家、プロデューサー、サウンドアーティストとして精力的に活動中。
元アフターディナー、ホアヒオ、ヴューマスターズ(現音採集観察学会)を主宰。
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