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5月2日、舞台装置のフレームが公演会場Theatre de la Communeに移された。ラボから徒歩で15分ほどのところにある立派なシアターです。この辺りはオバヴィリエの中心街で小さな教会のまわりにはくつろげるカフェもいくつか有り、日中の公園では、付近の住宅地の子ども達や高齢者がゲームをして遊んでいる様子はのどかです。




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巨大な舞台装置を組み立てるのは大がかりな作業です。ラボとシアター会場のテクニカル・スタッフ合わせて総勢7〜8名で、2日間くらいかかりました。各柱のあいだに9枚の板が設置されていて、その上でクラウディアのパフォーマンスが展開されます。彼女の衣装は装置の模様から取ったパターンで、さながら壁を這うカメレオン女の様相です。

5月3日、ミッシェルとわたしの音楽パートはほぼ出来上がってきた。現代曲シェリーノ風、イタリア歌曲、サスペンスのジングル、アフロ・リズムなどなど各章の曲も構成され、つなぎのツメをしている段階。クラウディアは舞台で演技しながら歌うため、額のあたりに1cmほどのコンタクトマイクを取り付けることにした。わたしとミッシェルは広いステージの端でカーテン越しに演奏するので、客席からは主人公のクラウディアの演技しか見えません。

5月6日、アンもミシンをこのシアターの楽屋に持ってきて仕事場を移しました。毎晩10時までリハーサルは続くので、2人ともくたくたになってラボに戻るというわけです。夕食時間のないスケジュールは宿泊組にとって辛い。昼間は舞台装置の柱を回転による組み合わせや、照明のパターンを構成するのに大半の時間がさかれてきました。美的な部分にこだわるクラウディアと技術スタッフとの口論はたえず、本番までもう日数がないのに大丈夫なのでしょうか。




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こうしてあっという間に日々が消化されてしまったのですが、今日昼の数時間がぽっと空いたので、コンコルド駅付近のオランジュリー美術館まで一人で足を運びました。パリで仕事するたびに立ち寄りたかったけれど、訪れたのは初めてのこと。表玄関に入るまでの長い列に並び、やっと入場券を買えました。クロード・モネの晩年晩年大作8枚の「睡蓮 Nynpheas」があまりにも有名。二部屋に分かれて壁面展示されているのですが、デジタルカメラを手に持った観光客が多すぎます。監視員がひっきりなしに「ノー・フラッシュ!」と注意を呼びかける声もうるさい。絵の前ににっこりと立って記念撮影し合う日本人の若いコをみて、すっかり興ざめしてしまいました。ついつい朱に染まってケータイで撮影している自分にもげんなり。落ちついて絵を鑑賞できる環境じゃないです、たんなる観光地になってしまっている。
"ウィキペディア(Wikipedia)"の情報でなんですが、この連作について芸術について思惑させられる一節を見つけました。『作品の出来に満足していなかったモネは一時は国家への寄贈を取りやめようとさえ思ったが、クレマンソーはモネに対し「あなたのために国家は多額の出費をした。あなたには寄贈を取りやめるという選択肢はない」との書簡を送った。』(参照ページ)




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そして日曜日は大事なフランスの大統領選決戦投票日。舞台制作でこれまで言い争っていたスタッフもいったん話題が選挙に到ると一丸となっていた。周りのアーティスト達は教育論を掲げる社会党のセゴレーヌ・ロワイヤル候補を支持していたようですが、経済政策を優先させる右派の与党・国民運動連合のニコラ・サルコジ候補が勢力を伸ばしていた。夕方の選挙結果はやはりサルコジの勝利。カフェで皆でビールを飲みながら、テレビ中継でサルコジが演説するのをさかんに揶揄していました。今まで良きフランス的な政府の恩恵を受けてきたアーティスト達にとっては、生き残りが難しい時代に突入しているのじゃないでしょうか。

5月7日、いよいよ公演初日、真っ暗闇から徐々に照明がフェイドインされ、後ろ向きに丸くなっているクラウディア姿がぼんやりと浮かぶ。有袋類の動物がゆっくりと小さな板の上を移動するようなムーブメントはすこし舞踏を想起させる。音楽はじわじわとスタート。板にはカーペット素材を貼り付けて、ハイヒールの靴が滑りにくくなっていますが、高さもあるので危険もともなうし肉体的にもきついパフォーマンスではないでしょうか。もちろん柱の間の取っ手につかまるようには出来ているけれど、その体勢で歌うクラウディアはじつに勇気あるなぁ、と感じます。70分で構成された音楽とヴォイス・パフォーマンスの間で、若干の即興的な部分も入る隙をつくっている。多スピーカーのサラウンド音響もエンジニアのサミュエルと調整してきました。まずまずのプレミア公演だったのではないでしょうか。
この舞台作品は、"Rencontres Choregraphiques International de Seine-Saint-Denis"という2ヶ月にわたる大規模なフェスティバルから招かれて企画制作されたものです。フェスティバルの総合プロデューサーから出演者2人に花束が贈られました。白いカラーの花に色紙がくるくるっと巻かれていてとてもスタイリイッシュ。シアター内のカフェで全関係者、友人客も含めたパーティーがありました。




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5月8日、公演二日目。「わたしはまだ『UP TO DATE』されてないわ、時間が足りないのよ」とクラウディアは口癖のように言っていたけど、ぎりぎりに創った歌詞や動きにも本腰が入ってきたし、主役として強力になってきた。舞台装置の柱と同じプリントの衣装を身にまとうのは昆虫の保護色のように見えます。衣装を一枚一枚脱いでいき、またマントを羽織るようすはさながら蝶の脱皮のよう。「だからUP TO DATEって理にかなっているわね」とわたしは言った。
クラウディアは舞台上で「あたしゃナマケモノだよ〜」と溜息まじりに唄ったり、モダニズムについてシリアスに語る姿がデートリッヒを彷彿とさせしたり、「君のヌードが見たい」とリズミカルに歌いながら柱の高い位置で膝を上げる。幼少からダンスを習い振付家になったので、やはりスタイルと舞台映えは抜群。高さに慣れて演技も大胆になってきました。

5月9日、最終日。クラウディアのコンタクトマイクのケーブルが衣装にこすれてか、時々バリバリというノイズがでたせいで、わたしはすごく緊張した。でもこの夜のクラウディアの歌と演技は鮮烈さがあり、胸に強く訴えかけるものがありました。無事終演。皆の忍耐強さがこの三回公演を成功に導いたんですね。

公演の成功をじっくり祝う間もなく、テクニカル・スタッフは巨大な舞台装置の解体作業を始めました。天井からたらした鎖を使って鉄フレームを床に倒していく光景とそのインダストリアルな作業音が、なぜが非常に美しく心に響いた。正直これこそがわたしにとって現代アート的と感じた瞬間でした。この舞台装置は次に作品が売れて公演されるまで、どこかの倉庫に眠り続けるわけです。

「あんなにあっさりと片づけてしまうなんて酷だわ」クラウディアは帰り道で涙ぐんでいました。「もう次の作品のアイディアはもうあるのよ、こんどはマリオネットを使おうと考えてるの」。このゆるぎない創作意欲はどこから生まれてくるのでしょうか。異端の振付家、クラウディアの冒険はつづくのでした。
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HACO
歌手作曲家、プロデューサー、サウンドアーティストとして精力的に活動中。
元アフターディナー、ホアヒオ、ヴューマスターズ(現音採集観察学会)を主宰。
隔月刊ニュースレター配信中。

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