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4月23日、ブリュッセルからパリへは、超特急列車タリスに乗ってたった1時間20分で着く。チケットは全席予約制で78ユーロ。大阪-東京間の新幹線にくらべてもかなり安いのではないでしょうか。パリ北駅に到着しさっそくタクシー乗り場へ。案の定、長蛇の列で待つこと30分。やっと、目的地のオヴァビリエに向かう。見覚えのあるストリートまできたので、「ここでけっこうです」とタクシーを降りた。

懐かしい。Les Laboratoire. 2年前にここでクラウディア・トユリオッジの作品「オペラ・シャドウ」を共演しました (2005年11/4の日記参照) 。しかし滞在するのは今回が初めてです。昨年より企画制作スタジオ、事務所のみに方針を変え、現在はイベント会場としての機能を停止してしまったそうです。さっそくスタッフと再会の挨拶をかわし、ホールへ入ると、クラウディアがもう舞台美術の仕事中でした。

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「あなたの部屋です、ここに泊まっていただけますよ」。元楽屋にベッドを置いたもので、すっきりした個室を提供してもらえた。小さなステレオ・スピーカーも用意してもらったから、ラップトップで作曲の作業に集中できます。隣の部屋には衣装デザイナーのアン・ブルゲルマンも寝泊まりしているという。彼女はベルギーのゲントから新作の衣装を制作するためにやって来たのです。
ラボの2階はスタッフのオフィス、ホワイエにはいくつかの大きなテーブルとライブラリーの棚。壁からはLANケーブルがでているので快適なインターネット環境。スタッフ用のキッチンやランドリー、舞台装置の工作場もガレージに設備されていました。

さっそく夕方からクラウディアと音楽の打ち合わせ。先にもう一人の音楽家のミッシェル・ギイエとクラウディアが即興的に録音した曲を聞かせてもらう。懐かしのロックっぽいフェイクや、ヴォイス・ノイズ、オペレッタ風の多重など。そのまま使えそうな部分がいくつかありました。

4月24日、「こういう風な曲調にトライしたいの」といってクラウディアから渡されたCDRの素材をもとに、ラップトップでプログラミングの作業をしこしこ開始。4時頃に時差ボケにおそわれ突然眠くなり、自室のベットでごろんとしてたら、隣の部屋からアンのミシンがけの音が聞こえてきた。彼女も一日中働きまくっている。まだ26才なのに舞台や映画の衣装デザイナーのキャリアを積んでいるなんてしっかりしたもんだ。


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クラウディアは作詞や音楽づくりにまだ気がはいらない様子。というのも、舞台美術の仕込みがまだまだ遅れている。今作「UP TO DATE」のために制作されたのは、5m x 11mと巨大な舞台装置。11本の柱の四面には、古い時代の壁紙模様、林、バルコニー、日本の美術館、鉄筋ビルディングの拡大写真が貼られていています。柱を回転させることによって、イメージの組み合わせを変化させたり、さらに照明の演出やビデオ映像を重ねることによってバリエーションが広がります。どこからこんなアイディアが浮かんでくるか感心させられる。
ただし彼女の作品プランは、ヴィジョンは大きいがディティールが明らかではなく、テクニカルなスタッフの手助けや力調に左右されがち。そしていつもぎりぎりにならないと物事が決まらない、というクセはこの業界の関係者に知れ渡っているようです。でも何をこんどやらかすのか?というユニークで鋭い個性に芸術家としての価値が認められているに違いありません。

4月27日、昼は自室にこもりラップトップで波形編集と作曲、夕方はクラウディアとホール内で実際に音合わせしながらパートを作っていく、演奏のためのプログラミングを書く、という過程を三日間くりかえしていました。今日の6時からは、ミッシェルと三人でセッション。静かでデジタルな方向性で即興をしてみたら、一曲使えそうなのが出来ました。ミッシェルはサンプラーを以前より柔軟に使いこなしていて、コンビネーションはうまくいっていました。

パリ郊外のラボで滞在制作というと優雅に聞こえるかも知れないけど、ははなはだ味けのない食生活を送っていました。というのもオバヴィリエの中心からはずれたこの地区は移民街になっていて、夕方からはイスラム系の慣習なのか治安が悪いせいなのか婦女は表に出ず、男性のみがやたらと外をたむろしています。Les Laboratoiresの隣りはボクシングジム、その先にはマリファナの吸引喫茶もあって、道端から開けっ放しの窓を覗くと、ホースのような器具で嗜んでいる、男一色の窟。びびります。クラウディアによると、「10年前はこんなじゃなかったのよ、この辺りはすっかり様変わりした。パリでは貧富の差が激しくなるにつれて低所得者が一角に集まりだしたの」。ラボへ到る道には路上駐車だらけのうえ、割られた車のガラスの破片が日常的に歩道に散らばっている。路を歩けばじろじろと見られ、「ニーハオ!」と声をかけられるのも気持ちのいいものではありません。ケバブ屋はやたらあるけど、気のきいたレストランは皆無。でもランチで買いに行くサンドイッチだけはさすがに安くて美味いし、お店のバイトの娘がいつも親切な笑顔で応対してくれるので、ついついリピーターになってしまう。もちろんスーパーで食料品は買えるのですが、クラウディアとのリハが毎晩10時すぎまでひっぱられるので、ラボのキッチンでゆっくり夕食を料理する暇なんてないし、毎日ろくなものにありつけてないのです。
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HACO
歌手作曲家、プロデューサー、サウンドアーティストとして精力的に活動中。
元アフターディナー、ホアヒオ、ヴューマスターズ(現音採集観察学会)を主宰。
隔月刊ニュースレター配信中。

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