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10月の海外ツアーは、上旬の約2週間をパリで過ごしました。
盟友クラウディア・トリオッジとの新たなプロジェクトです。今回は教育現場における授業の一環としてパフォーマンス作品制作を行いました。

●10月6日-9日
Claudia Triozzi (voice) + Haco (laptop)
@Collège Jean Jaurès (Villepinte)
高校の特別授業にて音のワークショップ

●10月15日
Claudia Triozzi (voice) + Haco (laptop)
@Université Paris Diderot-Paris7 for Béton Salon / "Playtime"フェスティバル (Paris)
大学の教室にて、神経科学のMarc Maier教授の講義を絡めた演奏パフォーマンス



2種類のプロジェクトは、基本的に学校側がアーティストを招いて作品制作をしてもらう、という趣旨のものでした。クラウディアは、子どもたちや学生たちにも参加してもらいコラボレーションをする方法を取りました。わたしといえば、ワークショップでフィールドレコーディングの補佐をしたり、デモ演奏をしたり、ラップトップで作曲したりと、毎日が新鮮で忙しい日々でした。


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左:借しアパートの部屋にはわたしのために赤い花が飾られていた。部屋の住人は女優さんとのことで、洒落た気配りが素敵です。
中:ベルヴィル公園がアパートから目と鼻の先にある。公園入口の丘からの眺め。いつもエッフェル塔が見えるのはいいものです。
右:最寄りのピレネ駅から歩いてすぐ。エディット・ピアフの生家がベルヴィル通り沿いにあります。


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左:あいにく連日の雨。朝方は薄暗く、昼間でも肌寒い。あーぁ。でも、ジャジャ降りの中を傘もささずに、スカーフなんかで頭を覆いながら、ひたすら歩き続けるパリの人々の姿には感心した。傘を持つのが面倒だから、少々濡れても、汚れても、気にしない。そんな逞しさ!パリっ子はスタスタと大股で歩く。
中:大学構内のギャラリーBeton Salon。フェスティバル「Playtime」の看板。
右:ギャラリーにて4日間のワークショップ。専攻学生たちと声を使った曲づくりを試みるクラウディア。


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左:神経科学のMarc Maier教授がギャラリーで予備授業。クラウディアとコラボレーションするにあたりリハーサルを行った。
中:いよいよ15日のコンサート。神聖なる教室にて、精神分裂を課題にした講義+ヴォイスとエレクトロニクスの共演。Marc教授はスライドを使いながら手慣れた様子で説明し、その横で分裂的なクラウディアとわたしの音楽が組み込まれても、あくまでも真面目に講義に集中する、という神業をやってのけました。講義室からはどっと笑いが起こる一方で、アフロリズムに乗りながら歌うクラウディアと交互するMarc教授の語りの部分でも、真摯に授業ノートを取り続ける勉強ひと筋の学生が客席にいたのにも驚かされた。先のワークショップの専攻学生たちは、リハでは恥ずかしがってかなり消極的だったのに、本番のエンディングでは大声を出して歩き廻り、コンサートを皆で成功に導いた。後日、Liberation紙にこれまた驚くべき高評が掲載されたのでした。
右:パリ最終日の夜は、アパートの隣りのシャンソニエのレストランで夕食。老舗の歌声レストランで観光客も多い。クラウディアたちも初めてここに入ったそうです。


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一週間後、気さくなMarc教授からメールをいただいた。「Playtimeに誘ってくれてありがとう。あれはまったくすごい経験だったよ」。彼こそが真のエンターテーナーではないでしょうか。とても素敵な先生でした。

また来年も会おうね、パリ。
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「踊りに行くぜ!!inアジア」- JCDNアジア巡回プロジェクト2009、タイ公演に参加してまいりました。
作品「ムシンガイ」by 星三っつ: 三浦宏之+星加昌紀 (ダンス) x Haco (音楽)のリメイク制作+公演のため、8/6からバンコクに10日間滞在しました。

バンコク公演 "WE'RE GONNA GO DANCING!!"
2009年8月14日
会場:パトラヴァディ劇場 (Patravadi Theatre)
日本出演者:森下真樹 / 星三っつ×Haco(DANCE×MUSIC!vol.4)/ P’Lush 現地出演者:Thanapol Virulhakul + Vidura Amranand
主催:NPO法人 ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク(JCDN
共催:パトラヴァディ劇場、国際交流基金バンコク



Patravadiシアターという恵まれた環境のもとで作品制作させていただき、敷地内の同じアパートで出演者やスタッフの皆さんとも交流できて、たいへん楽しく過ごせました。タイは初めて行った国なので、視覚、聴覚、臭覚、味覚、触覚、さらなる新たな感覚領域 (?) にも多々刺激を受けました。なんせ食べ物が安くて美味くって、毎日何を食べようか?って楽しみなほど。

唯一残念だったのは、荷物を軽くするのにSDレコーダーとマイクを持っていかなかったこと。宿泊施設の周辺、街中のいたるところで、いままで耳にしたことのないような鳥の鳴き声、寺の鐘、民族楽器の音、生活音が混ざって素敵な音風景をつくりだしていました。日本やヨーロッパとはぜんぜんちがう、緩~い空気の混じったもの。悔しいので、ぜひまた行く機会があればと願ってます。次回はレコーダーを回しまくりたいです。

連日午後からリハーサルのため時間の余裕もなかったのですが、練習のあとはメンバーと晩飯にくりだしたりしてリラックス。時には朝早起きして近場をプチ観光したりすることもありました。ちょっとベタですが、写真レポートをお届けします。



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左:「We're Gonna Go Dancing!! (踊りに行くぜ!!) 2009」バンコク公演のポスター
中:ワット・ラカン地区の主であるパトラヴァディ劇場。ギャラリー、レストラン、ショップも洒落ています。
右:同敷地内の宿泊施設。ベランダで涼みながらインターネットなど。


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左:目と鼻の先にある下町のマーケット。フード、屋台、雑貨、衣類、多種の出店が路地という路地を埋め尽くし活気があります。
中:マンゴスチンの食べ方を教えてもらいました。ナイフは不要。さっぱりとした甘さで美味。
右:練習スタジオでウォームアップ中の男ダンサーデュオ、星三つ


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左:2日目の朝に運河の向こう岸へ行ってみました。渡し舟の料金はたった3バーツ (約9円)
中:うまいことのせられて三輪タクシー、トゥクトゥクに初乗りしました。開放感があって面白い、排気ガスもすごいけど。あちこち寺やショップを巡りましたが、ぼったくられはしませんでした。
右:豪奢なドゥシッド・マハ・プラサート宮殿を足早に見物しました。


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左:練習の後、屋台のラーメンを食べに行きました。くつろぐ三浦さんと星加さん
中:食欲旺盛な森下真樹さん。アジアツアーでも人気者
右:激辛のタイフードも好きですが、今晩はあっさりした白魚のお粥で癒されました。


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左:半屋外の劇場内、蒸し暑いのと蚊がたくさん。両サイドで大型扇風機がブンブン廻っています。
中:P’Lushのメンバーが照明のフォーカスをしているところ
右:14日無事終演後、打ち上げの席で和気あいあい。JCDNの水野さんと現地ディレクターのトビーさん


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左:滞在最終日のお昼すぎに、JCDNのツアーマネージャー、ハリスさんと一緒にドタバタ観光しました。まずはお膝元ワット・ラカンから。たくさんの吊り鐘を順に鳴らしていきます。御利益の高い寺院として人気があり、若い人も多くお参りしていました。船着き場から高速船に乗ってみました。
中:あっというまにワット・アルン。巨大な仏塔を目の辺りにして、おもわず「うお~!!」と声をたててしまいました。三島由紀夫の「暁の寺」のモチーフになったという。塔の急な階段を怖々上っていきました。晴天で塔からの見晴らしはサイコー。
右:ワット・ポーに到着。全長46mの寝釈迦さま。穏やかな微笑みをたたえられ、ジャンボな足の裏には巧緻な螺鈿の模様が。背後にずらりと並べられた金蜂に一つ一つお賽銭を入れる音が、仏殿に神秘に響き渡っていました。


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劇場では5時から、タイの現代舞踊家ピチェ氏におる交流ダンス・ワークショップ。「踊りに行くぜ!!」出演アーティストと地元ダンサーが参加。


あっというまの10日間。皆元気で無事にバンコク公演をこなせて何よりです。 タイに連れて行ってくださった「踊りに行くぜ!!」JCDNの皆さん、ダンサーさん、音響・照明スタッフの方々に多謝。 現地の温かなスタッフの対応にも心からお礼を申しあげたいです。
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作品について*「ムシンガイ」は、別府で生まれ、バンコクで育ち、まだまだ進化させていきたいものです。 この先もどうぞよろしくお願いいたします。

星三つとの「ムシンガイ」(DANCE×MUSIC!vol.4) 巡回公演、次は11月7日舞鶴、12月6日沖縄です!!!
●2008年10月25日、26日
出演:Claudia Triozzi (voice)+Haco (laptop, effects)
会場:Nam June Paik Art Center、ソウル (韓国)


10月24日 早朝便で関空から2時間弱の飛行、あっという間にソウルのインチュン空港に降り立つ。なにせ韓国で公演するのは初めてのことなので、3泊4日の旅にとてもウキウキしている。リムジンバスでソウル市内へ向かうこと約1時間。バス内の録音ガイドには日本語のアナウンスもあって便利です。
ホテルに到着してまもなく、パリから前日にソウル入りしていた共演者のクラウディアとプロデューサーのマリア、エンジニアのトーマとロビーで落ち合い、昼食に出かけました。

ソウル市南部からバスで西へ約40分、高速道路沿いに新興住宅が建ち並ぶ郊外へ。今年Yongin市にオープンしたばかりのNam June Paik Art Centerは、丘のふもと周辺の景観からしてどう見ても浮いている、ひときわ誇らしく輝いている建物なのでした。「NOW JUMP」というタイトルのナム・ジュン・パイク・アートフェスティバルが、2008年10/8〜2009年2/5に開催されている。期間中に数々のパフォーマンスのイベントも組まれているのです。(プログラムのサイトはこちら)
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企画キュレーターのエジュンさんは、パリで勉学を修めたのでフランス語が堪能です。彼女のおかけでクラウディア・チームはコミュニケーションに何の問題もありません。
さっそく、2F展示場の一角にあるシアターにPAが設置され、わたしたちデュオ公演のサウンドチェックと軽くリハーサル。
その後クラウディアは、展示スペースの方でソロパフォーマンスに使う道具の準備にもかからなければならない。パリから運輸されたオブジェ郡の組立とチェック。昔の作品なので金具は古びており、案の定マシンの一部が断線していたようです。トーマと現地スタッフもだいぶ焦っている。夜の11時半に、やっと修復作業を終えることができ、クラウディア・チームは胸をなでおろしたのでした。

10月25日 クラウディアのパフォーマンス「Park」が昼1時からスタート。
展示スペースにわさわさと人々が集まって、彼女を取り巻きました。この現代美術館は、地元の子どもたちや教育ママたちのかっこうのトレンドスポットになっているらしく、家族連れがやたらに多い。

彼女はくわえ煙草で、ソーセージ焼き機械の中の座っている。
これはシュールな光景だ。
観衆は興奮して、いっせいに携帯やデジカメを向け始めた。
彼女はテーブルに置かれた金属製の皿乾し器で演奏する。
彼女は別のスペースへ移動する。
惹きつけられたように観衆はぞろぞろと後へ付いていく。
彼女はゼリー菓子を手で砕き、ネクタイや人形を取りだす。
彼女は人工芝に寝そべり、鍛えられた肢体でのけぞる。
彼女は胸に金紙をつけ、チョコレートケーキをカップに盛り続ける。
ケーキカップはベルトコンベアで運ばれ、次々に床に転落するばかり。
彼女は床に置いたバスケットボールの網に腰を入れて、ゆっくり時計回りをする。
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じつはわたしも、はじめてクラウディアの「Park」を目にしましたが、ほんとカッコ良かったです。
まるで遊び場の見せ物にされたような状況はアーティストにとって気の毒でしたが、
それに挫けることなく彼女の毅然とした態度、その強度と集中力、恐れ入りました。



夜6時に、「Fais une halte chez Antonella」の公演。
今年6月にもパリで演奏した作品のデュオ・バージョン。
クラウディアのヴォイスとわたしのラップトップは、ばっちり息が合っているので、緊張はありません。
のびのびとかけ合いを楽しめた。
シアターにお客さんもたくさん入って、きっと初めて聞くような音楽だろうけど、じっと耳を傾けてくれた。後で、アートセンターで働いていた若者カップルが寄ってきて、わたしのCDを前から持っているよ、と話しかけてくれたりもしました。

10月26日 クラウディアのパフォーマンス「Park」の2回目。
今回はカメラをいっさい禁止。スタッフたちがきちんと観客のエリアを整備していた。
子どもから大人まで神妙な面持ちで、より深くパフォーミングアートと対峙しているようでした。
気持ちよくオーディエンスの一人として鑑賞することができた。「ブラボー!」

同日6時に、「Fais une halte chez Antonella」の2回目。
初日よりも、緩急のメリハリがついて、即興部分もほどよく大胆になった。
終演後、子連れの中年男性が「ワンダフル、ワンダフル!」と大声で拍手しながら客席から立ち上がったり、すごく好意的なリアクションで、お客さんにも助けられました。


これらの公演の合間に、もちろん展覧会を拝見しました。1Fでは、ナム・ジュン・パイクの回顧展。氏の語録や思想、影響を受けたデュシャン作品をはじめ、ケージやボイスなど交友の深かったアーティストたちの作品紹介、フルクサスの関連なども網羅されていました。たいへん興味深く展示の量も多いので、もっと時間の余裕があればよかったのになぁ、ぜんぶ見切れなくて残念だなぁ、と惜しみました。なにしろ、NJPアートセンターを主体に、Shingal高校体育館、Zienアートスペースといった近隣会場でも展示が設けられているのですから、壮大な規模のフェスティバルにちがいありません。ちなみに総カタログは文庫本サイズで4冊となっています。
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さいごに、楽器やオブジェの片づけを済ませた後、エジュンさんやスタッフたちとアートセンター近くの豆腐料理屋で打ち上げをしました。テーブルの上は本格的な韓国料理のお皿で埋め尽くされました。みんなの顔がどんどんニヤけていく。

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「カムサハムニダ!」
10月11日 オーストラリアのゴールドコースト経由でメルボルンへ。今回はジェットスター航空で延べ12時間ほどの空の旅。毛布もビデオモニターも機内食まですべてオプション購入になっているので、個々の選択にゆだねられます。ただ、長距離便だとねぇ、退屈で、サービス過剰ぎみの (例えばコーヒーやワインのおかわりがOK) の他航空便がなんだか恨めしかったりします。

メルボルンは陽差しがすっかり春めいて、ノースリーブやTシャツ姿で街を闊歩している人々も見うけられる。さて、先月滞在した同じアパート部屋に戻ってきた。わたしが日本にいる間は、ダンサーのカップルたちに又貸ししていたらしいけど、見事なくらいピカピカに部屋を掃除してくれていた。なんて繊細で素晴らしい人たちなんだろう。

chunkymove2008.jpg着いてわずかの仮眠をとる間もなく、Chunky Moveスタジオへ向かうことに。プロジェクトマネージャーのリチャードとサウンドオペレーターのアリは、急遽マルチスピーカーを持ち込んで、システムの先行チェックをしていたのでした。こちらは日本から手直しした4GBものサウンドファイルをすでにインターネット経由でアリに送っていたので、彼はプログラミングをやり直す作業をし、ルーシーも一緒に試聴することになっている。アリはだいぶんマルチシステムのためのアプリケーションにも手慣れてきたようで、プレビューまでにはなんとか漕ぎつけそうです。ほっと一息。

10月12日 コンテンポラリー・ダンスカンパニーChunky Moveの公演「Two Faced Bastard」を昼すぎに見に行く。この作品は、主宰振付家のギディオン・オバーザネクと公私を共にするルーシ・ギャレンのコラボレーション製作。メルボルン・インターナショナル・アーツ・フェスティバルでは、地元ダンス界の先端を走る二人の協力なパートナーシップも注目の的。それにしても、「Corridor」という大規模な作品を製作しながら、他のプロジェクトも同時進行させてしまう振付家ルーシーのエネルギーと才能には驚くばかり。そして、アントニー、バイロン、リーという3人のダンサーも両作品に出演しているのだ。これは絶対に見逃すわけにはいかない。「Two Faced Bastard」では、一つのステージをはさんで両サイド向き合わせで客席が設けられていた。スリットになったカーテンでステージは分断され、AサイドとBサイドで異なったダンサーたちが異なった展開をしていくのです。どちらの客席側に座るかで印象が違ってくるし、カーテン越しに笑いやざわめきが起こったりすると、「あちらでいったい何が起こっているのか?」、ただただ覗きたくなってきてしまう。舞台半ばで、「ストップ!」と役者が叫ぶ。「どう、向こう側が見たいと思わない?ならば、座席を移ってはいかがかな?」というセリフ。で、多くのオーディエンス (わたしも含め) がステージを跨いでA側とB側に大移動。舞台は振り出しに戻り、ああ、そういうことだったか、と妙に納得。Chunky Moveのショーは奇抜なアイディアとユーモアのセンス、ダイナミックなムーブメントで、次は何をやらかしてくれるのだろうか?という期待をもたらしてくれる。がっちり地元人気をつかみつつ、世界に飛翔しているカンパニーなのです。

10月14日-15日 ヴィクトリア調の建物ミートマーケットのArtsHouseで、最終仕上げのセット・リハーサルが再開される。ダンサーたちは動きの復習、サウンドデザインの方は細かい詰めに差しかかっている。座席下の12個の小スピーカーで音をどう動かすか、最後まで調整に余念がありません。
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10月16日 いよいよプレヴューの夜。ルーシーもダンサーたちも気をひきしめているようす。
廊下状のステージに沿った100席はすぐに埋まっていく。始まりのない、あいまいさで、ダンサーたちは携帯電話でしゃべりながら歩き出す。街中で録音した声々が座席下スピーカーからまばらに鳴り始める。「Corridor」では観客さえも作品の一部となるのです。
ダンサーたちは日常的な振る舞いをしたかと思えば、互いに即興で振付し合ったり、外世界と内世界への通路を気まぐれなほどに往来する。
次の場面では、電磁波のクリック音で、いっせいに踊り出したり。
リーのソロでは崩れたヘナチョコ・ダンスが披露され、チープな質感のリズムが後押しする。
「Shower Alone」の歌が始まると、鏡面パネルに文字を書きながらゆるりと移動、そしてシャワールームのごとく四面パネルに囲われたダンサーたちは身体をくねらせ陶酔的な瞬間。
ハーレットとカースティのデュエットでは生々しい肉声のハーモニー。
リーディングをしながら、またiPodを聞きながら全員がシンクロしたり、と絶えず拡張されていく身体感覚と時間感覚。
長いステージを交差しながら走り抜けていくシーンでは、足音もびゅんびゅんスピーカーの間を走り抜けていくシアター的音響。
鏡の内でオブジェ・ランプが灯ると共に微細な高周波が漂う最終セクション。ダンサーたちは白い紙の装束を身にまとい、絡み合いながら自ら紙の音を立てる。スピーカーからも紙や鉛筆といった現実音が加工されて蠢く。
空気のような低音が徐々に上昇音に移り変わり、他者と携帯電話で話しているアントニーがオブジェ・ランプを押しながら、客席背後をゆっくりと一巡する。
おもむろに彼が灯りを消す。

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ー しばしの暗闇と沈黙 ー

客電が点いた瞬間、わっと拍手がわき起こりました。
初演成功です、やれやれ。

10月17日 それでも腑に落ちない点があった。今晩のショーの前に、いまいちど2ペアのラウドスピーカーと各サブスピーカーの再調整を試みることにしました。それで発覚したのは、アリが勝手に良かれと思い、スピーカーのイコライジングを前後で違う設定にしていたのだ。やれやれ、いらんことしてくれたものです。4つのスピーカーとサブを完全対象な設定に戻すと、狙っていた3Dっぽいサラウンド効果があらわれた。空気のような低音は濃霧のごとく、シャワー音は全客席に降り注ぐサウンドのカーテンとなり、ラストのフランジング音は会場を取り巻き渦のように動いているかんじです。
今夜のショーは何かが変わった。
「やったー」という達成感を、ついにわたしは味わうことができました。
6人のダンサーも緊張がほぐれたせいか、「うん、キマッタ」という感触。
聴衆はあたかも「Corridor」という共同通路を抜けて、別の時限にワープさせられたかのようでした。

10月18日 gertrude.jpg昼間にシドニー在住のサウンドアーティスト、ゲイル・プリーストさんからインタビューを受ける。彼女はミケーラの友人でフェスティバルの取材のためにメルボルンを訪れていたのです。その後、一緒にGertrudeコンテンポラリー・アートスペースへ行くことにしました。「21:100:100」は、21世紀に制作された100人のサウンドアーティストによる100作品、という触れ込みの展覧会。ギャラリー展示は各作家紹介のパネルとヘッドフォンという形態で、人々は熱心に音源に聞き入っていました。角田俊也さんや、Improvised Music from Japanサイト関連の音楽家など、日本人アーティストが数多くセレクトされているのも一つの傾向。
今回の滞在中に、RMITギャラリーの「HEAT」展を、ACMI (Australian Centre for the Moving Image) にはアッバス・キアロスタミとヴィクトル・エリセのコラボレーション「Correspondences」を観に行きました。イランとスペインという別の場所に生まれ活動しながら、スピリチュアルな面でつながりのある二人の映画監督の映像共同作品、インスタレーションには、グッとくるものがあり、長い時間をかけてACMIで作品に見入っていました。

10月19日 メルボルン滞在の最終日。

「Corridor」は昼夜の部を合わせて全13公演ありますが、連日ソールドアウト。驚きです。発せられる言葉の多さ、つかみどころの無さ、それほど分かりやすい作品ではないからです。いえ、むしろ実験的なこだわりを貫いた作品といえるでしょう。それにしても、廊下状のステージが最大限に生かされたダンサーの配置や動き、照明やセットも緻密ながら刺激に満ちている。何よりもそこに席を取って体験することに、格別な意味があるように思われます。マルチサウンドも客席のどこに座るかで、聞こえてくるものの印象が違ってきますし、実際に座席下スピーカーは、オーディエンスの尻や鞄で吸音されるので、毎回状態が変化する、というのもこの作品の特徴。こういうアイディアはハイファイな精細さを求めるサウンドアートとはぜんぜん違う発想から生まれているので、ちょっとしたショックを受けました。ルーシーとのコラボレーションを巡ってじつに貴重な経験をさせてもらい、また一つ階段をのぼれたような気がします。
ルーシー・ギャレンIncの「Corridor」は来年アメリカで巡回されますが、今後ヨーロッパや日本でも公演されることを祈りたいです。
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(※注:掲載した写真はすべて、リハーサルの合間に個人的に撮った記録です。)

(ちなみに、プロ写真家によるショーの公式写真はこちらのサイトにアップされています↓)
Photography by Belinda http://www.dancephotography.net.au/lucy_guerin.htm
9月1日 Chunky Moveダンスカンパニーのヨーロッパ遠征から戻ってきたリー、アントニー、サラ。6人のダンサーが揃ったフルリハーサルを見るのは初めて。な、なんと、わたしの歌もの「Shower Alone」やステレオバグスコープで、ダンサーたちが踊っています。ルーシーが拙CDから気に入った部分を採用し、すでに振付がなされていたのでした。とくに「Shower...」では、鏡面になった4つの可動パネルで空間を移動させながら、床にのけぞったり、絡み合う彼らの動きは妖しいほど美しく、鳥肌がたちました。

9月2-6日 長身のリーのユニークなソロの部分、リズム部分の色付けなど、作曲構成の枠組みを作るパソコン作業。それと声のファイルの編集には時間を費やす。並行して、まだ固まっていないセクションの振付と踊り手のリハーサルは続行中。
金曜日はリハ終了後、隣のバーにみんなで飲みに行く。地ビールがこんなに美味しいのに、なぜかメルボルンっ子たちは、アサヒ・スーパードライばかりを好んで飲んでいる。

9月7日 今夜はThe Toffで、ニューヨークからDJオリーヴ、大阪から友人のティム・オリーヴ、メルボルン在住のロビン・フォックスたちが出演するギグを見に行く。ここのステージはピンク色のビロード幕が特徴。写真左:ティムとドラム奏者ロビーのセッティング。写真右:爆音とレーザー光線を操るロビンのパフォーマンス。
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9月8日 24メートル長の廊下状ステージに沿って、客席が向かい合わせに並べられる。その客椅子の下には12個の小型スピーカーが置かれ、PAには4個のラウドスピーカーに加え、低音用サブスピーカーが設置された。この大掛かりな音響システムは「Corridor」のコンセプトに由来している。オペレートするのは若手エンジニアのアリで、マルチスピーカーPAを操るのは今回が初めてだという。わたしの使っているソフトやパソコン話しが通じるので、これは仕事しやすいのではと思いました。お互いマルチ音響舞台に挑戦することにわくわくしている。

9月9-12日 最終セクションで、ダンサーは白紙でできた衣装を身につけ、実際の紙の音を舞台上で鳴らす。ここでは音楽的な要素を排除し、音響的なアプローチに徹したものにしようと案を練る。ヴォイス・セクションの組み立てもし、ステレオ・フォーマットでの音構成が週末に完成。通しリハーサルでサウンドを合わせてみて、ルーシーやダンサーたちもとても気に入ってくれました。プリ・プロダクションのわたしの役目は大まかには終了したような気でいました。
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9月15日 マルチスピーカーのシステムのために、わたしの作ったトラックをまとめてサウンドファイルを作成する。こういった転送作業はけっこうストレスを感じる。それでも、複数スピーカーから音出しする以上、必要不可欠な要素だ。どのスピーカーにどの音を振り分けるのか、という綿密な計算もしなくてはならない。すでにイメージが膨らんでいるルーシーは、「走る足音がこうやって座席下スピーカーを移動していくように」と簡単に手振りで指示を出すのですが、アリはすぐにそれを実現できない。初めて手にしたマルチシステム用のアプリケーションは、彼が思い描いていたような夢のプロラムではなかったようで、かなり手こずっているようす。

9月17日 朝の9時からラジオのインタビュー2本と、昼から雑誌のインタビューを受ける。「アイドル並の人気だね〜」とスタッフに揶揄される。ぜんぜん嬉しくない。セクションのサイズ変更があったり、詰めをしなくてはいけない時期なのに、プロモと事務に時間を取られて戸惑ってしまいます。

9月19日 とうとうドレス・ランの日がやってきました。舞台美術のドナルド、照明デザインのキース、衣装担当のポーラ&スージーもスタンバイ。それにフェスティバル関係者や知人を招いての公開リハーサル。わたしはすでに聞く側にまわっていて、座席で鑑賞チェックする。部屋灯りのようなライティングはシンプルだけれど、要所要所でとても効果的に働いている。実験的かつ繊細で美しい総合作品になろうとしている。
ただ、マルチ音響の方はなんとか急場をしのいでいたものの、ボリューム調整は不完全、タイミングとマニュアル操作はぎこちない。事故的に出てない音すらあるという始末。わたしは深い溜息をついた。これが自分のサウンドデザインと思われては困るのです。まだ終わってない。オペレーターのアリはいい人だけど、経験不足でいろんなことが出来ないのだ。彼の負担を減らすために、100%近くプリセットしたサウンドファイルを作成し直す必要性がある。プロジェクトの規模が大きくなればなるほど、自分一人ではコントロールしにくくなる。こういう事態は予測してはいたけれど、根気強く日本に帰ってから残業をするしかないのです。文句言っても何も片づきはしないでしょうから。
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9月20日 今回の滞在最終日。ルーシーとパートナーのギリオンがメルボルンの郊外へとドライブに誘ってくれた。ミケーラも同乗。2時間も車で走って、ウォーキング・コースの入り口にただりついた。遠目にワラビーの群れを発見。野生のカンガルーを見るのは初めて。向こうも「な〜んだニンゲンか」とこっちを観察している姿が愛くるしい。丘を降りていくと真っ青な海岸が目の前に広がっていました。岩の形状がいかにもオーストラリアって感じじゃありませんか。すこし人里はなれたところにあるので、わたしたち以外はビーチに誰もいませんでした。素敵な休暇をプレゼントしてくれて、ありがとう。
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前半戦終了。ここでいったん帰国しますが、また10月にはショーの最終仕上げのために戻ってきます。
あとすこし課題が残されていますが、ショーの成功のため全力をそそぐつもりです。(#^—゜)V
コンテンポラリーダンス振付家ルーシー・ギャレンの新作「Corridor」の音楽・サウンドデザインを担当しました。
10月のメルボルン・インターナショナル・アーツ・フェスティバル参加作品。

ぞくっとするエクスペリメンタルな美しい作品ですよ→プログラム詳細

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2008年8月から9月にかけて、まる一ヶ月間オーストラリアのメルボルンで滞在製作をした日々を綴ってみました。

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8月23日 関空からマレーシア航空でクアラルンプール行きに搭乗。なのにコタキナバル??とかいう聞いたこともない空港にいったん着陸した時は、まッさかと思った。フライトスケジュールには何も書かれてないじゃない。、、あれれ、よく見ると、NON-STOPじゃなくて、ONE-STOPだって? 2度の乗り継ぎがあることを今更ながら知ることになる。ド疲れる。けっきょく延べ18時間もかかり、それでも無事にやっとオーストラリア大陸のメルボルンに到着。

タクシーでシティ方面へ、そしてアパートに到着。プロデューサーのミケーラが温かく出迎えてくれました。フリンダー駅からも近いこのアパートのビルディングは、アールデコ調なので有名らしい。カフェが立ち並ぶ路地は人通りも多く、ファッション雑誌の撮影に使われるほどなんですって。今日から一ヶ月ここがわたしの住みかであり仕事場。
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8月24日 朝起きるなり、ホコリアレルギーの自分は、さっそく部屋に掃除機をかける。まだ長旅の疲れが残っている。昼すぎにふわふわと近所を散策。24時間営業のスーパーマーケットやオーガニック食料品店もあるので便利なこと。日本は夏の終わり頃だが、南半球のこちらは真冬。でも外出時にコート着用さえしていれば、それほどの寒さは肌に感じられない。

今夜は振付家のルーシーと再会、超ウレシイ。一緒に夕食に出かけて、話し込んでいるうちにすっかりエネルギーが充満してくるのでした。

8月25日 会場であるミートマーケットのArtsHouseは、敷地面積こそ巨大だが、高い天井や木柱そのものがレトロで、パステルな色調が愛らしい。すでに「Corridor」というべき廊下状のステージが設置され、複数のランプ照明も吊り下げられていた。ハーレット、カースティ、バイロン、3人のダンサーのみでリハーサルは始まっている。
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8月26-29日 舞台の冒頭部で人々の声を散りばめたい、というルーシのコンセプトを受けて、さっそく街中のフィールドレコーディングを開始。SDレコーダーとイヤープラグマイクを用いてバイノーラル録音を試みる。トラム (路面電車) 、大学、病院、カフェ、路上、スーパーマーケット、駅、市場、ロビーなど、さまざまな公共の場所で、老若男女の日常的な会話をキャッチする。マイクは両耳に入れているので、さりげなく人々に接近し盗み聞きするようなテクニックを要します。夜中のバーで「カレとはもう別れちゃったわ」という青春まっさかりの娘、ヴィクトリアマーケットの物売りの声、「カンガルーの皮財布はいかがかな?」、病院の受付で「こんど同じ事が起きたら、もう妻は助からないんでしょうか?」と尋ねる子連れの男性。
まるで入り組んだ人生の縮図を見るような思いがしました。秘密の空気穴をこっそり覗いた気がしました。

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8月30日 アパートメントの部屋にもモニタースピーカーを用意してもらった。これで会場とネグラの両方で作業ができる。フィールドレコーディングで仕入れた膨大な音ネタをファイルにして仕分けする。ミケーラがちょうど下の階に暮らしているので、ブロードバンドのワイヤレスネットが受信でき、とても快適。
メルボルンの物価は日本の都会並み。グルメな街で食材が豊か、コーヒーのまろやかさは世界一かも。無礼な振る舞いをする店員にも出会ったことないし、ジェントルで過ごしやすい街です。
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8月31日 本日はThe Toffでカジュアルなライヴ。この大通り沿いにあるCurtin Houseというビルディングへは、アパートから歩いてこれる距離。アート本屋や、ギャラリー、レコードショップ、レストランが入っている人気スポット。8時半頃になると、ルーシーやミケーラたちを始め、サウンドアーティストのジェフ・ロビンソン、フィリップ・サマーティス、ロビン・フォックスも2階会場に見えて盛況です。最初にブリスベン在住のメディアアーティストTom Hallのラップトップ・ソロ、わたしのソロは歌とラップトップ演奏、それに田尻麻里子さんと仕込んだビデオ映像をバックで流しました。休憩をはさんでトムとわたしの即興デュオは、アンビエントノイズっぽい展開。
大好評のようで、持参したCDは完売! 音響も良いし照明も揃っている、バーもくつろげる、スタッフは親切でウエルカムなかんじ。つくづくいいハコだなぁって感じました。
(パリ日記つづき)

6月10日 オフの日がとれたので、朝はゆっくりリラックスしました。初夏のさわやかなお天気ともあって、セーヌ川沿い、エッフェル塔付近をゆるりと散歩。4時半に待ち合わせがあるので、がつんとした観光はやめときました。

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モンパルナスのホテルに戻るとほどなくして、
ルーシー・ギャレンさんが訪れました。彼女はオーストラリアの振付家。今年8月-9月にメルボルンで彼女の新作「Corridor」の製作に入ります。偶然にも、ルーシーもちょうどリサーチと休暇を兼ねて欧州旅行中。で、昨夜のFondation Cartierのコンサートも見に来てくださったんです。たまたまパリに居て会えるなんて、抜群のタイミング。

ホテルから歩いて5分のところにファンシーなレストランがいくつかありました。外の椅子に2人座ったら、優しい陽差しとやわらかな風を感じて、白ビールで乾杯。サイコーに気持ちいい。
メルボルンでの製作の打ち合わせもすこし始める。私はサウンドデザインを現地滞在で担当するので、ここでいろいろと話しができたのは、まことに都合がいい。

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そこへ、仕事を終えたクラウディアも便乗することに。ラ・ロトンドで一緒に夕食をとることにしました。この赤壁レストランは、画家モディリアニも出入りしていた老舗だそうです。サーモンのグリルは胡麻焼きで醤油風味のソースにほうれん草添え。和風だけどあくまでもフレンチってとこが、美味でした、セボン!
イタリア人のクラウディアは、情熱家で茶目っ気があり周りを驚かせたり、呆れさせたりする。
オーストラリア人のルーシーは、冷静でいつも周りに気遣いを忘れず、社会的な視点を大切にする。
およそ対照的ともいえる2人の振付家。ほぼ同い年の女性同志がこんなところで3人出会っているのは、なんだが運命的な感じさえしてきます。



ホテルからモンパルナスの墓地も散歩コース。(写真右:ゲンスブールのお墓)
モンパルナスには、いくつかクレープの老舗がある。茶色い生地で五角形に折りたたんで焼いたクラシックなもの。ご存知のとおり、中身にはチーズ、タマゴ、トマト、ハムなんかを好みでオーダーできます。ビールとアップルジュースを混ぜたような飲み物、あれ、何て言うんでしょうか?クレープと相性が良かったです。

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今回は食も楽しめたし、4日間だけど、なかなか濃厚なパリ滞在でしたね。



※某日記サイトに友人からレスいただきました↓

Q: ビールとアップルジュースを混ぜたような飲み物、あれ、何て言うんでしょうか?

A: それは、ノルマンディー名物(ブルターニュにもあります)、シードルcidre ですね。ゲンズブールのお墓、昔私も行きました。あの頃はなぜかメトロの切符が山ほど墓石に並べてあったのですが、さすがに今はなさげですね。

コメントありがとうございました!!
パリへ4泊5日の公演旅行に行ってきました。その模様をレポートします。

●2008年6月9日
出演:Claudia Triozzi (voice)+Haco (laptop, effects)+Michel Guillet (electronics)
会場:Fondation Cartier (カルチェ財団現代美術館)、パリ(フランス)


カルチェ財団現代美術館で開催中の「Patti Smith - Land 250」

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フィルム、ドローイング、ポラロイド(白黒)写真の展示で、Arthur Rimbaud / Rene Daumal Room / "At home" / The Coral Sea Room のセクションから成っている空間。"At home" は文字通り、茶皮のソファーと円形絨毯がスペース中央あたりに置かれている。1978年に自らが被写体になりロバート・メイプルソープと撮った16mm フィルム"Still Moving"。ジェム・コーエンによる海のモノクロ映像がトランポリンに映しだされたThe Coral Sea Room。パティの朗読の声、マイブラのケヴィン・シールズとの共演音源も。彼女のカリスマ的な軌跡と内面の部分、敬愛する詩人や、かつて同胞だったロバートへのメモリアル的な要素が静かに流れた作品郡でした。

パティの部屋ともいえるこの展示空間に、アーティストたちを招待するという趣旨のイベントシリーズが、「The Nomadic Nights」だったのです。ラインナップは、パティ自身のヴァージニア・ウルフに捧げる朗読とアコースティック・コンサート、トム・ヴァーライン、ポーリン・オリベロス、フレッド・フリスなど蒼々たる面々。なぜに、クラウディア・トリオッジ・トリオが選ばれたのかちょっと驚きですが、私たちの記録ビデオを彼女が観て決めたそうなのです。

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6月9日、「Patti Smith 」の展覧スペースにPAやライトが仕込まれました。もちろん一部レイアウトを変えて、中央の客席部分が確保され、地べたに座布団、折りたたみの小イスが並べられて、どこかホーミーな雰囲気になりました。「Fais une halte chez Antonella」は組曲になっているけれど、各セクションに即興の部分も多々あるのです。クラウディアがヴォイスで、ミッシェルはサンプラー、私はラップトップ。サウンドは前回エンジニアのサミュエルが担当してくれたので、やっぱり演奏しやすく、曲調の変わり目とか、細部も満足のいく出来でした。絶妙のタイミングで客席から大きな拍手が。 Fondation Cartierということもあって、お堅く冷ややかな反応なのでは?と覚悟もしていたのですが、ブラボー!の温かい拍手が鳴りやまなかったので、これも嬉しい驚きでした。

シャンパンで乾杯。カルチェのスタッフもていねいで優しくて、「Patti Smith - Land 250」の写真カタログを、出演者の一人一人にプレゼント。この本、立派でずっしりと重たかったですが、光栄のかぎり、素敵なお土産になりました。
ニューヨークパンクの女王って、呼称有りましたよね(笑)、そういう世代だな〜って、懐かしさもちょっぴり。

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5月2日、舞台装置のフレームが公演会場Theatre de la Communeに移された。ラボから徒歩で15分ほどのところにある立派なシアターです。この辺りはオバヴィリエの中心街で小さな教会のまわりにはくつろげるカフェもいくつか有り、日中の公園では、付近の住宅地の子ども達や高齢者がゲームをして遊んでいる様子はのどかです。




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巨大な舞台装置を組み立てるのは大がかりな作業です。ラボとシアター会場のテクニカル・スタッフ合わせて総勢7〜8名で、2日間くらいかかりました。各柱のあいだに9枚の板が設置されていて、その上でクラウディアのパフォーマンスが展開されます。彼女の衣装は装置の模様から取ったパターンで、さながら壁を這うカメレオン女の様相です。

5月3日、ミッシェルとわたしの音楽パートはほぼ出来上がってきた。現代曲シェリーノ風、イタリア歌曲、サスペンスのジングル、アフロ・リズムなどなど各章の曲も構成され、つなぎのツメをしている段階。クラウディアは舞台で演技しながら歌うため、額のあたりに1cmほどのコンタクトマイクを取り付けることにした。わたしとミッシェルは広いステージの端でカーテン越しに演奏するので、客席からは主人公のクラウディアの演技しか見えません。

5月6日、アンもミシンをこのシアターの楽屋に持ってきて仕事場を移しました。毎晩10時までリハーサルは続くので、2人ともくたくたになってラボに戻るというわけです。夕食時間のないスケジュールは宿泊組にとって辛い。昼間は舞台装置の柱を回転による組み合わせや、照明のパターンを構成するのに大半の時間がさかれてきました。美的な部分にこだわるクラウディアと技術スタッフとの口論はたえず、本番までもう日数がないのに大丈夫なのでしょうか。




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こうしてあっという間に日々が消化されてしまったのですが、今日昼の数時間がぽっと空いたので、コンコルド駅付近のオランジュリー美術館まで一人で足を運びました。パリで仕事するたびに立ち寄りたかったけれど、訪れたのは初めてのこと。表玄関に入るまでの長い列に並び、やっと入場券を買えました。クロード・モネの晩年晩年大作8枚の「睡蓮 Nynpheas」があまりにも有名。二部屋に分かれて壁面展示されているのですが、デジタルカメラを手に持った観光客が多すぎます。監視員がひっきりなしに「ノー・フラッシュ!」と注意を呼びかける声もうるさい。絵の前ににっこりと立って記念撮影し合う日本人の若いコをみて、すっかり興ざめしてしまいました。ついつい朱に染まってケータイで撮影している自分にもげんなり。落ちついて絵を鑑賞できる環境じゃないです、たんなる観光地になってしまっている。
"ウィキペディア(Wikipedia)"の情報でなんですが、この連作について芸術について思惑させられる一節を見つけました。『作品の出来に満足していなかったモネは一時は国家への寄贈を取りやめようとさえ思ったが、クレマンソーはモネに対し「あなたのために国家は多額の出費をした。あなたには寄贈を取りやめるという選択肢はない」との書簡を送った。』(参照ページ)




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そして日曜日は大事なフランスの大統領選決戦投票日。舞台制作でこれまで言い争っていたスタッフもいったん話題が選挙に到ると一丸となっていた。周りのアーティスト達は教育論を掲げる社会党のセゴレーヌ・ロワイヤル候補を支持していたようですが、経済政策を優先させる右派の与党・国民運動連合のニコラ・サルコジ候補が勢力を伸ばしていた。夕方の選挙結果はやはりサルコジの勝利。カフェで皆でビールを飲みながら、テレビ中継でサルコジが演説するのをさかんに揶揄していました。今まで良きフランス的な政府の恩恵を受けてきたアーティスト達にとっては、生き残りが難しい時代に突入しているのじゃないでしょうか。

5月7日、いよいよ公演初日、真っ暗闇から徐々に照明がフェイドインされ、後ろ向きに丸くなっているクラウディア姿がぼんやりと浮かぶ。有袋類の動物がゆっくりと小さな板の上を移動するようなムーブメントはすこし舞踏を想起させる。音楽はじわじわとスタート。板にはカーペット素材を貼り付けて、ハイヒールの靴が滑りにくくなっていますが、高さもあるので危険もともなうし肉体的にもきついパフォーマンスではないでしょうか。もちろん柱の間の取っ手につかまるようには出来ているけれど、その体勢で歌うクラウディアはじつに勇気あるなぁ、と感じます。70分で構成された音楽とヴォイス・パフォーマンスの間で、若干の即興的な部分も入る隙をつくっている。多スピーカーのサラウンド音響もエンジニアのサミュエルと調整してきました。まずまずのプレミア公演だったのではないでしょうか。
この舞台作品は、"Rencontres Choregraphiques International de Seine-Saint-Denis"という2ヶ月にわたる大規模なフェスティバルから招かれて企画制作されたものです。フェスティバルの総合プロデューサーから出演者2人に花束が贈られました。白いカラーの花に色紙がくるくるっと巻かれていてとてもスタイリイッシュ。シアター内のカフェで全関係者、友人客も含めたパーティーがありました。




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5月8日、公演二日目。「わたしはまだ『UP TO DATE』されてないわ、時間が足りないのよ」とクラウディアは口癖のように言っていたけど、ぎりぎりに創った歌詞や動きにも本腰が入ってきたし、主役として強力になってきた。舞台装置の柱と同じプリントの衣装を身にまとうのは昆虫の保護色のように見えます。衣装を一枚一枚脱いでいき、またマントを羽織るようすはさながら蝶の脱皮のよう。「だからUP TO DATEって理にかなっているわね」とわたしは言った。
クラウディアは舞台上で「あたしゃナマケモノだよ〜」と溜息まじりに唄ったり、モダニズムについてシリアスに語る姿がデートリッヒを彷彿とさせしたり、「君のヌードが見たい」とリズミカルに歌いながら柱の高い位置で膝を上げる。幼少からダンスを習い振付家になったので、やはりスタイルと舞台映えは抜群。高さに慣れて演技も大胆になってきました。

5月9日、最終日。クラウディアのコンタクトマイクのケーブルが衣装にこすれてか、時々バリバリというノイズがでたせいで、わたしはすごく緊張した。でもこの夜のクラウディアの歌と演技は鮮烈さがあり、胸に強く訴えかけるものがありました。無事終演。皆の忍耐強さがこの三回公演を成功に導いたんですね。

公演の成功をじっくり祝う間もなく、テクニカル・スタッフは巨大な舞台装置の解体作業を始めました。天井からたらした鎖を使って鉄フレームを床に倒していく光景とそのインダストリアルな作業音が、なぜが非常に美しく心に響いた。正直これこそがわたしにとって現代アート的と感じた瞬間でした。この舞台装置は次に作品が売れて公演されるまで、どこかの倉庫に眠り続けるわけです。

「あんなにあっさりと片づけてしまうなんて酷だわ」クラウディアは帰り道で涙ぐんでいました。「もう次の作品のアイディアはもうあるのよ、こんどはマリオネットを使おうと考えてるの」。このゆるぎない創作意欲はどこから生まれてくるのでしょうか。異端の振付家、クラウディアの冒険はつづくのでした。
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4月23日、ブリュッセルからパリへは、超特急列車タリスに乗ってたった1時間20分で着く。チケットは全席予約制で78ユーロ。大阪-東京間の新幹線にくらべてもかなり安いのではないでしょうか。パリ北駅に到着しさっそくタクシー乗り場へ。案の定、長蛇の列で待つこと30分。やっと、目的地のオヴァビリエに向かう。見覚えのあるストリートまできたので、「ここでけっこうです」とタクシーを降りた。

懐かしい。Les Laboratoire. 2年前にここでクラウディア・トユリオッジの作品「オペラ・シャドウ」を共演しました (2005年11/4の日記参照) 。しかし滞在するのは今回が初めてです。昨年より企画制作スタジオ、事務所のみに方針を変え、現在はイベント会場としての機能を停止してしまったそうです。さっそくスタッフと再会の挨拶をかわし、ホールへ入ると、クラウディアがもう舞台美術の仕事中でした。

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「あなたの部屋です、ここに泊まっていただけますよ」。元楽屋にベッドを置いたもので、すっきりした個室を提供してもらえた。小さなステレオ・スピーカーも用意してもらったから、ラップトップで作曲の作業に集中できます。隣の部屋には衣装デザイナーのアン・ブルゲルマンも寝泊まりしているという。彼女はベルギーのゲントから新作の衣装を制作するためにやって来たのです。
ラボの2階はスタッフのオフィス、ホワイエにはいくつかの大きなテーブルとライブラリーの棚。壁からはLANケーブルがでているので快適なインターネット環境。スタッフ用のキッチンやランドリー、舞台装置の工作場もガレージに設備されていました。

さっそく夕方からクラウディアと音楽の打ち合わせ。先にもう一人の音楽家のミッシェル・ギイエとクラウディアが即興的に録音した曲を聞かせてもらう。懐かしのロックっぽいフェイクや、ヴォイス・ノイズ、オペレッタ風の多重など。そのまま使えそうな部分がいくつかありました。

4月24日、「こういう風な曲調にトライしたいの」といってクラウディアから渡されたCDRの素材をもとに、ラップトップでプログラミングの作業をしこしこ開始。4時頃に時差ボケにおそわれ突然眠くなり、自室のベットでごろんとしてたら、隣の部屋からアンのミシンがけの音が聞こえてきた。彼女も一日中働きまくっている。まだ26才なのに舞台や映画の衣装デザイナーのキャリアを積んでいるなんてしっかりしたもんだ。


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クラウディアは作詞や音楽づくりにまだ気がはいらない様子。というのも、舞台美術の仕込みがまだまだ遅れている。今作「UP TO DATE」のために制作されたのは、5m x 11mと巨大な舞台装置。11本の柱の四面には、古い時代の壁紙模様、林、バルコニー、日本の美術館、鉄筋ビルディングの拡大写真が貼られていています。柱を回転させることによって、イメージの組み合わせを変化させたり、さらに照明の演出やビデオ映像を重ねることによってバリエーションが広がります。どこからこんなアイディアが浮かんでくるか感心させられる。
ただし彼女の作品プランは、ヴィジョンは大きいがディティールが明らかではなく、テクニカルなスタッフの手助けや力調に左右されがち。そしていつもぎりぎりにならないと物事が決まらない、というクセはこの業界の関係者に知れ渡っているようです。でも何をこんどやらかすのか?というユニークで鋭い個性に芸術家としての価値が認められているに違いありません。

4月27日、昼は自室にこもりラップトップで波形編集と作曲、夕方はクラウディアとホール内で実際に音合わせしながらパートを作っていく、演奏のためのプログラミングを書く、という過程を三日間くりかえしていました。今日の6時からは、ミッシェルと三人でセッション。静かでデジタルな方向性で即興をしてみたら、一曲使えそうなのが出来ました。ミッシェルはサンプラーを以前より柔軟に使いこなしていて、コンビネーションはうまくいっていました。

パリ郊外のラボで滞在制作というと優雅に聞こえるかも知れないけど、ははなはだ味けのない食生活を送っていました。というのもオバヴィリエの中心からはずれたこの地区は移民街になっていて、夕方からはイスラム系の慣習なのか治安が悪いせいなのか婦女は表に出ず、男性のみがやたらと外をたむろしています。Les Laboratoiresの隣りはボクシングジム、その先にはマリファナの吸引喫茶もあって、道端から開けっ放しの窓を覗くと、ホースのような器具で嗜んでいる、男一色の窟。びびります。クラウディアによると、「10年前はこんなじゃなかったのよ、この辺りはすっかり様変わりした。パリでは貧富の差が激しくなるにつれて低所得者が一角に集まりだしたの」。ラボへ到る道には路上駐車だらけのうえ、割られた車のガラスの破片が日常的に歩道に散らばっている。路を歩けばじろじろと見られ、「ニーハオ!」と声をかけられるのも気持ちのいいものではありません。ケバブ屋はやたらあるけど、気のきいたレストランは皆無。でもランチで買いに行くサンドイッチだけはさすがに安くて美味いし、お店のバイトの娘がいつも親切な笑顔で応対してくれるので、ついついリピーターになってしまう。もちろんスーパーで食料品は買えるのですが、クラウディアとのリハが毎晩10時すぎまでひっぱられるので、ラボのキッチンでゆっくり夕食を料理する暇なんてないし、毎日ろくなものにありつけてないのです。
HACO
歌手作曲家、プロデューサー、サウンドアーティストとして精力的に活動中。
元アフターディナー、ホアヒオ、ヴューマスターズ(現音採集観察学会)を主宰。
隔月刊ニュースレター配信中。

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