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●『John Cage 100th Anniversary Countdown Event 2007-2012』

日時:2007年11月10日
会場:国立国際美術館 B1階講堂

演奏曲:SONG BOOKS (ジョン・ケージ作曲, 1970)

演奏者:稲垣貴士、竹村ノブカズ、ニシジマ・アツシ、HACO、深川和美、前林明次、村井啓哲

公式情報ページ: http://jcce.exblog.jp
[企画・主催] John Cage Countdown Event 実行委員会(JCCE)


8月の終わりに、ニシジマさんから突然の出演依頼をいただいた。「今回John Cage Countdown Event to 2012という企画を立てました。このイベントは、ケージが2012に生誕100周年、没後20年を迎えるにあたって、5年前である今年から、毎年一回、ケージのコンサートを2012まで、カウントダウンで行っていこうというものです。... 今回は、SONG BOOKSという90曲からなる曲集の中から抜粋して行う予定なんです」
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「とりあえず、ぜんぶ譜面を見てもらって、好きな曲を選んでいただかないと」まず手始めに喫茶店で打ち合わせとなり、彼はどっさりと楽譜をテーブルの上に取り出した。...とても...いっぺんに読めるような量じゃありません。


「SONG BOOKS」とは? 声と行為のための大奇想なソロ曲集なのでした。

-- 各曲は「SONG/歌」、「THEATRE/演劇」、「SONG WITH ELECTRONICS/エレクトロニクスを伴う歌」、「THEATRE WITH ELECTRONICS/エレクトロニクスを伴う演劇」という四つのカテゴリーに分類される。

楽譜の記譜法もまた五線記譜、図形譜から言葉による指示書など、可能性の限りを尽くしている。--

傾向別に分けると、歌曲、ヴォイス・エレクトロニクス、シアター、0'00” (日常的行為を増幅)、スライド (写真) など。微分音などアカペラで歌うのには難度を極めるものがある一方、譜面に音符が書き込まれていないものも少なからずあり、英語の指示書で数行というものから、地図、絵図、数字にいたるまで幅広い。また、「易」の表にあてはめて演奏手段を決めさせるチャンス・オペレーションの曲も含まれる。
サウンドアーティストのニシジマさんと村井さんは、過去にこの曲集の演奏経験があり、いろいろと具体例を教えていただけるので心強い。
まずは、譜面の解読からはじまりました。


そして9月に、京都で演奏者と実行委員会スタッフ一同で全体ミーティング。曲の割り振り、演奏法などを話し合った。いろいろと明確になってきたので不安も吹き飛び、そのあとは和気あいあいとした懇親会。こんなすばらしいチームに加えていただき光栄に思いました。


10月末、最終選曲も照らし合わせて調整し、いよいよ公演日が近づいてくる。

SOLO for VOICEのなかには、たぶんに演奏者自身の感覚や解釈にゆだねられる部分がある。だから同じ曲を違う人が演奏すると別の印象を与えることだろう。例えばシアターピースで、各自が思いつく名詞か動詞のリストを作成するのだが、「易」を用いることによって、進行や行為の譜表が導きだされる。実際やってみると「占い」気分になってきたりするもんだから、自笑してしまう。わたしの選んだヴォイス・エレクトロニクスの曲は、星座の名前が音符になっているけど、ふにゃふにゃの線と点々で記譜されているだけだ。下の方をうなり声で低く強調させ、上の方を裏声で高く強調させよという指示。このエレクトロニクスをカオスパッドでピッチ操作することにした。オーソドックスな五線譜の"チープ・イミテーション"の歌詞は、ヘンリー・デイヴィッド・ソローの「市民の不服従」の冒頭部分。エリック・サティの「Socrate」をチャンスの作曲で崩したメロディが付いている。そうそう、SONG BOOKSには、「サティとソローを結びつける」という主題が設定されている。興味を抱いて、ソローの「WALDEN - 森の生活」も読んでみた。自然から学ぶ - いま地球に必要とされてるものがいっぱい詰まっている本だ。


11月9日は、国立国際美術館の講堂で前日仕込み。稲垣さん、ニシジマさん、村井さん、スタッフの方々が、朝から会場セッティングや音響システム構築の作業をされていました。会場は「中央」と「正面」を排するため観客をの周囲を演奏者が取り囲むかたちになった。圧電ピックアップを仕込んだテーブル、踏台、ミニ机と椅子などが2つに割ったステージの上に配置された。4チャンネルの常設スピーカーに加えそれぞれの演奏者用の小型スピーカーも用意された。

各自で工夫した演奏システムはとてもユニークなものでした。かいつまんでいけば、ニシジマさんの長鋏やテレグラフ・ハープ。深川さんはフランス語の曲をソプラノで歌いながら、扇風機に顔を近づけて音声変調。村井さんはマイクに包帯を巻いたりぶっこわれたアンプでわざと音を破壊。竹川さんはM.デュシャンの横顔の絵とコンピュタ・ヴォイスのプログラム、前林さんの自動エフェクト・パッチ (深川さんの声用)、 などなど。
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全員がソロとして、各自各様の構成に従い、全く無関係かつ同時多発的におこなう、ミュージサーカスの手法で演奏されます。
いったいどうなることやら、わくわくです。


11月10日、午前11時から整理券の発行開始。その時点ですでに駆け寄せた人々で長蛇の列。ものの10分で入場定員数100名を越えてしまった。会場に入れないお客さんのために、急遽ロビーのモニター中継の方にも椅子が並べられることになった、という。すごい人気に皆一様に驚いた。

開場ぎりぎりまで、サウンドチェックや調整に時間が消化されてしまった。全員リハなしで、各自で決めた演奏曲順をぶっつけで公演することになった。たしかにこれはめったとない見せ物でもあるかもしれません。

前半では、稲垣さんがソローに関連するスライドを映写。竹村さんがジェンガでゲームを始める。前林さんがタイプライターを打つ執拗な繰り返し。深川さんがサラダを料理する包丁サウンド。ニシジマさんがテープを張りめぐらせるベリッという音。わたしはといえば、音無しで大葉っぱをかざしたり、写真撮影したり...
それらが偶然に重なったり、通り過ぎたりを、耳にし、目にする。互いに支配されず同調せずに、共存の道をさぐる。
空間の使い方も、所作も現場の感でハンドルを切るようなところもありました。
観客を巻き込み演奏も多発。村井さんの糸電話や、深川さんの似顔絵描き。ふとみればお客さんがサラダを食しているし (笑)。竹川さんの積み上げられたジェンガがくずれたズガーーンという大音響に相手のお客もびっくり。
後半になって、村井さんが「日日是好日」を連呼。ニシジマさんが送電線ハープのドローンを鳴らす。さらにわたしが英語で歌う「最良の政府とはまったく支配しない政府である(ソロー)」。竹川さんがスロートマイクを付けてでコニャックを飲みつづけ、顔が赤らむ。アクシデント的に静寂がおとずれたところで、「林檎をあげる」という行為を実行。さいごに「フィードバックを鳴らす (2回目)」という曲でしめくくる。稲垣さんがプロジェクターをおもむろに消す。
全31曲。1時間ぴったりで終演。
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あとで、譜面や演奏機材を興奮ぎみに覗きにこられるお客さんも多かったです。「おもしろかった!」と好奇心旺盛な若い人が集まったようですし、もちろん大学関係の専門的な方々も来られていました。結局、会場へ足を運んでくださったのは定員の倍ほどの人数におよんだそうです。中に入れずモニター中継で観ておられたお客さんも拍手されていた、と聞いてじーんときました。たいへん嬉しいことです、感謝の念にたえません。

プロジェクトを支えるために、接待係やアシスタントに回ったスタッフの方々の努力も実りました。今年は国立国際美術館の特別協力で実施されました。
なによりも、JCCE実行委員会およびに、出演者のみなさん、第1回の成功万歳、お疲れさまでした。
すごく楽しませていただきました。こんな貴重な機会を与えてくださり、多謝です。

この「John Cage Countdown Event」は、前述のようにシリーズで2012年まで続けられるので、また来年も期待しています!
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HACO
歌手作曲家、プロデューサー、サウンドアーティストとして精力的に活動中。
元アフターディナー、ホアヒオ、ヴューマスターズ(現音採集観察学会)を主宰。
隔月刊ニュースレター配信中。

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